人間の屑

2001/01/16 映画美学校試写室
町田康の小説を村上淳主演で映画化。
なんかヘンテコな映画だ。笑うけど。by K. Hattori


 このタイトルにはドキリとした。よりにもよって『人間の屑』である。自分のことを言われているようでビクビクしてしまう。原作は町田康の同名小説。脚本は『ローカルニュース』の中村義洋。監督はこれが長編デビュー作になる中嶋武彦。プロデューサーは現在飛ぶ鳥を落とす勢いの仙頭武則。金なし、仕事なし、根性なしという三重苦の“人間の屑”清十郎を演じるのは、『ナビィの恋』の村上淳。彼の子供を産んでしまうふたりの女性を演じるのは、『WILD LIFE』の夏生ゆうなと、最近すっかり怪奇系女優になっている佐伯日菜子。このふたりは怪作『蛇女』の主演コンビじゃないか。『人間の屑』も途中にほとんど怪奇ホラー系の演出があって、お腹の底の方から笑いがこみ上げてきます。

 かなりいろんなところで笑いが出る映画ですが、コメディというわけでもないし、かといってシリアスな映画でもない。キャラクターを深く掘り下げて云々するような作品でもなく、かといって表面的な部分をカリカチュアして笑い倒すのでもない。強いて言えば、日常の中にあるちょっと奇妙なところや不条理な部分を突出させ、それだけをつないで1本の映画にしてしまったような感じ。主人公の清十郎の自己中心的一人称の映画で、彼は何があっても懲りないし、反省しない。いつも場当たり的に生きている自分を完全に肯定し、目の前に女がいればとりあえず抱き、目の前に金があればとりあえず盗み、思いつだけの商売で成功したり失敗したりして、最後はわけのわからない自滅をする。映画を見る側は、清十郎の場当たり的な行動にいつも振り回されるて、大混乱する。しかしそれでもこの映画がバラバラに解体しないのは、清十郎の自我があまりにも肥大しすぎていて、周囲のどんな人物も点景になっているからだろう。

 この映画はキャスティングがもの凄く豪華。清十郎を溺愛する祖母を演じているのは岸田今日子。母親を演じるのは鰐淵晴子。他にも「え、この人がなぜこんな所に?」というような顔ぶれがぞろぞろ登場する。しかしそうした周辺人物と主人公の間で、あまり大きなドラマが成立していかない。清十郎の子供を産んだ小松がストーカーになったとしても、無言電話やつけ回し以上の過激な行動には出ないし、成り行きで彼と結婚して子供を産んだミオは、彼が仕事に身を入れようが入れまいがお構いなしにノホホーンと暮らしている。葬式で妹が犯されたと宣言するだけして、そのまま立ち去ってしまう謎の男(演じているのは木下ほうか)。SMうどんという下らないアイデアを映像化するためだけに現れたとおぼしき絵沢萌子。奇声を発する浮浪者・神戸浩。どれもワンポイントの出演で、その前後の話につながらない。

 昔のバンド仲間とも連絡を取らない。同棲相手が妊娠すれば捨てるし、別の女といるのが心地よければいきなり結婚してしまう。主人公はその場その時にだけ生きている。昔からの友情だの絆だのを、まったく重んじない。あ、やっぱり僕にも「屑」の素質があるかも……。

2001年春公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:サンセントシネマワークス 宣伝:楽舎


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