セシル・B
ザ・シネマ・ウォーズ

2001/01/12 映画美学校試写室
ハリウッドの映画資本に宣戦布告した若者たち。
ジョン・ウォーターズはどこまで本気? by K. Hattori


 ハリウッドのスター女優ハニー・ホィットロックが、ボルティモアで開かれた新作映画のチャリティー試写会場から誘拐された。誘拐犯の首魁はセシル・B・ディメンテッドと名乗るインディーズ映画監督。彼はハリウッド映画の帝国主義的な搾取に対抗するため、ハニーを主演に究極の反ハリウッド作品を撮影し始める。ハリウッドの資本家たちと甘ったるいハリウッド映画を愛する腑抜けな観客たちは、ディメンテッドたちの行動に大反発。だが映画を愛する真の映画ファンたちはディメンテッドたちを熱狂的に支持し、国論は完全に二分される。ハリウッドのぬるま湯の中で欺瞞に満ちた資本の戦略に洗脳されていたハニーも、ディメンテッドたちの撮影に無理矢理つき合わされる内に、ハリウッドのマインドコントロールから逃れ、映画作りのための戦いに身を投じようと決意。こうしてボルティモアを舞台に、映画100年の歴史を賭けた映画戦争が勃発する。これは映画を金儲けの道具にしか考えないハリウッドと、映画を作家の手に取り戻そうとする心ある作家たちの戦いだ。札びらで観客の頬を張るような傲慢で不遜な大作主義と、観客に心の声を届けようとする映画魂のぶつかり合いだ。

 監督は『シリアル・ママ』や『I LOVE ペッカー』で最近すっかりお行儀がよくなっていたジョン・ウォーターズ。大作映画に次々出るくせに演技力はからきしのハリウッド大根女優ハニーを演じるのは、「こんな映画にこんな役で出ちゃって、ちょっと洒落にならないんじゃないの?」と観客をドキドキさせるメラニー・グリフィス。ハニーを心酔させて自らの信奉者にさせるカリスマ的インディーズ監督セシル・B・ディメンテッドを演じているのは、ジャック・ニコルソン、ハーヴェイ・カイテル、デニス・ホッパーなどのジイサマ俳優たちと次々に共演した“ジジイ殺し”の若造スティーヴン・ドーフ。今回の作品では、彼に“ババア殺し”の才能もあることが証明される結果になった。

 ビジネススクールを出た会社経営者たちに映画製作の実権を握られ、新鮮味のないシリーズ映画と、自らを絶対安全圏に置くファミリー映画と、大予算をかけた見せ物映画で世界中の映画市場を席巻しているハリウッド。『セシル・B ザ・シネマ・ウォーズ』は、製作から流通まですべてをその支配下に置くハリウッドに対抗するには、もはやテロリズムしかないという極論を述べている。たちの悪い冗談としか思えないこの映画の主張ではあるが、ひょっとしたら今から10年ぐらいたつと「あの時ウォーターズが言っていたことは正しかった」と世界中の映画ファンがほぞをかむことが起きるかもしれない。この映画は悪趣味と悪乗りにしか見えないドタバタ騒ぎの下で、ジョン・ウォーターズなりの映画作りへの危機感を正直に告白しているのではないだろうか。僕はこの映画を観てあまり笑えなかったんだけど、それはここに描かれている現状が「笑い事では済まされない」ことに、僕自身どこかで気付いているからかもしれない。

(原題:Cecil B. DeMented)

2001年春公開予定 シネ・アミューズ
配給:プレノンアッシュ


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