連弾

2001/01/10 松竹試写室
天海祐希が映画の中で初めてはまり役をつかんだ。
竹中直人監督のコメディ映画。by K. Hattori


 竹中直人監督の最新作。楽しい。面白い。話はかなり悲惨だし、テーマも深刻なのに、映画の全編に笑いが、しかも時には爆笑が散りばめられている。人生には涙も笑いもある。笑いの中に涙があるならば、涙の中にも笑いがあるはずだ。長年連れ添ってきた夫婦の破局と子供の苦しみというモチーフはどう考えても笑えないし、それは笑ってはいけない部分だろう。でもこの映画は笑っちゃうのだ。人間はどんなに苦しい境遇になっても、どんなに悲しい場面に出くわしても、その中で些細なことに声を上げて笑ってしまうことがある。「悲しければ笑えないはずだ」というのは浅薄な人間理解だと思うし、「笑っているんだから本当は悲しくないのだ」というのも乱暴な話だ。泣きながら笑い、笑いながら泣く。感情の浮き沈みの中で一喜一憂しながら、人間の生活は営まれている。この映画はそんな人間生活の不思議さを、丁寧に優しく描いていることに好感が持てる。

 ものすごく悲惨な主人公たちに笑ってしまうというのは、竹中直人監督のデビュー作『無能の人』に通じるものかもしれない。でも『無能の人』のギャグというのはかなりブラックなものも多かったし、人間の情けなさや悲しさの底が抜けてしまった部分に成立する、かなり残酷なものであったのも事実だと思う。その後の『119』も面白かったけれど、これは主人公である竹中直人が劇中ではドラマの中核から一歩離れた部分に立っていることで成立していたコメディ。僕個人としては3作目の『東京日和』をあまり評価していないんだけど、今回の『連弾』の竹中直人は、『東京日和』のカメラマン役があってこその芝居だったように思う。竹中直人は監督としてどんどん上手くなっている。その変化が1作ごとに観客に伝わってくるのだから、これはすごいことです。

 不倫妻を演じているのは天海祐希。宝塚退団後の『クリスマス黙示録』から間もなく公開される『狗神』まで、僕は女優としての天海祐希の使い方がどこか間違っているとずっと感じていた。映画の中でもっと活発に動き回る、男勝りでタフで明るく快活でユーモアのある役の方が絶対に映える女優さんだと思っていたのだ。そうした点で、『連弾』の天海祐希は今までの映画出演作から一歩抜け出した。不倫がばれても開き直って夫に悪態をつき、職場では男性の部下を怒鳴り倒し、それでいて女性としての可愛さや色気もたっぷり発揮して、最初から最後まで憎めないキャラクターになっているんだよなぁ。彼女と竹中直人が喧嘩をするシーンなんて、天海祐希の方が背が高いし手足が長いから、有無を言わさず「はい、奥さんの勝ち!」という感じがよく出ている。天海祐希には、しばらくこの路線でがんばってほしい。

 映画の中にしばしば登場するデタラメな挿入歌も面白い。すべて作詞作曲は竹中直人だそうですが、こりゃまるでミュージカルだよ。主役以外の配役も抜群。当意即妙の台詞は、何気ないものまですべて名台詞に聞こえてしまう。これは今年の邦画ベスト10に入るぞ!

2001年3月下旬公開予定 渋谷シネプラザ
配給:松竹 宣伝:ザナドゥー


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