劇場版
頭文字〈イニシャル〉D
Third Stage

2000/12/27 東映第1試写室
峠の走り屋たちの熱い青春を描いた人気アニメの劇場版。
レースシーンの迫力。ドラマ部分も面白い。by K. Hattori


 ヤングマガジンで連載されている、しげの秀一の同名コミックを劇場映画化したもの。もともとテレビの深夜枠で放送された人気アニメで、ビデオ市場でもかなり人気のあった作品であるため、この企画には劇場作品としてのオリジナリティなどほとんどない。一応は劇場版オリジナルのエピソードなども加えているようだが、中身は物語の世界観や登場人物を説明することにほとんど費やされており、いわば『頭文字〈イニシャル〉D』の世界への入門編のような機能を持った作品と言えるかもしれない。しかし各キャラクターへのエピソードの配分や、秋から冬を経て春に向かう季節の中で繰り広げられる主人公の成長ドラマはうまく構成されていて、1本の映画としてきちんと観られる内容になっていると思う。もちろん事前にビデオで他のエピソードなども見ておけば、映画の中にほんの少ししか登場しないキャラクターについてのエピソードがわかって面白みが増すのだろうし、映画の中では回想シーンとして処理されている様々なバトルの全貌がわかるのだろう。でもこの映画は放送やビデオを見ていない人でも、きちんと主人公に感情移入できるように作られているのだ。

 夜毎に峠で公道レースをする“走り屋”たちの世界を描いた作品で、見どころは劇中に何度も登場するレースシーン。3DCGを使った映像はハリウッド映画のCG映像に比べればチャチで安っぽいが、これは劇映画ではなくアニメ映画だから、この程度の質感でも劇中のシーンとしてまったく問題のないものだ。むしろキャラクターの造形に比べて、車や背景の描写がリアル過ぎるぐらい。もっとノッペリした質感にした方が、絵としての馴染みはよくなると思うけど、まぁこれはこういう作品として作られているのだから今さらどうこう言っても仕方がない。この映画が徹底しているのは、「車を3DCGで描く」というコンセプトを徹底していること。レースシーンだけでなく、そこいらの交差点を走っているバスやトラックもすべてCGで描いているようだ。こうして車の質感をすべて統一しているから、レースシーンにもすんなりと入っていける。ただしバイクのライダーまでCGで描くのはやりすぎだと思うけど……。

 主人公・拓海は高校3年生で、自分の進路に迷っている時期。県下随一の走り屋チームから県外遠征チームのメンバーに入ってほしいと誘われるが、拓海はどうにも踏ん切りがつかない。自動車に対する興味や、もっと早く走れるようになりたいという気持ちはあるものの、今まで受け身でレースに参加していた拓海は、自ら積極的に動くことに慣れていない。クラスメートなつきとの恋も、ある問題が心のわだかまりになってギクシャクしている。そんな18歳の少年の心の揺れを、この映画はうまく描いていると思う。自分の生き方に悩み、進路に悩み、恋に悩む、正統派の青春映画なのだ。

 たぶんテレビ版やビデオを観ていた人しか劇場に行かないと思うけど、それ以外の人にも面白い作品だと思う。

2001年1月13日公開予定 全国東映系
配給:東映


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