処刑人

2000/12/26 映画美学校試写室
正義感の強いアイリッシュ兄弟が神の啓示で悪人退治。
リアルな暴力とギャグが同居する不思議な映画。by K. Hattori


 舞台はサウスボストン。時は聖パトリックの祝日(3月17日)。パトリックの祝日を盛大に祝うのは、アイルランド系のカトリック信者に決まっている。聖パトリックはアイルランドの守護聖人だからだ。アメリカ映画の中で、アイルランド系の住人は喧嘩っ早いが正義感が強く正直な直情径行型の人間として描かれることが多い。この映画の主人公マクナマス兄弟も、信仰に厚く、同時に喧嘩っ早い典型的なアイリッシュだ。ふたりは馴染みのバーでロシア・マフィアといざこざを起こし、お礼参りに来たロシア人たちを返り討ちにしてしまう。正当防衛でふたりは無罪。ルール無用のロシア・マフィアにウンザリしていた市民たちは、兄弟を正義の味方、街を守る現代の聖人たちだと持ち上げる。その夜、兄弟は一夜の宿とした留置場の中で、神の啓示を受ける。「悪なる者を滅ぼし、善なる者を栄えさせよ」。兄弟は街の悪党どもを一掃するため、武器を持って大暴れし始める。

 兄コナー・マクナマスを演じているのは、『パウダー』『バニラ・フォグ』『ボディ・ショット』のショーン・パトリック・フラナリー。弟マーフィー・マクナマスを演じているのは、モデル出身のノーマン・リーダス。共に日本では無名の俳優だが、この映画のふたりはすごくカッコいい。無精ひげが様になるハンサムな顔立ち、無駄な脂肪の付いていない精悍な体つき、アクションシーンで見せるシャープな身体の動き。ワイルドなオスの匂いを撒き散らしながら、同時に甘さや優しさも感じさせる男たちだ。共演のウィレム・デフォーも、今回はぶち切れた芝居で観客を大いに楽しませてくれる。最近はちょっと真面目な役が多かったけれど、正気と狂気の両側に足を突っ込みながら、かなりナルシストが入っているこの役は、『ストリート・オブ・ファイアー』の頃の彼を思い出させるようだった。コミカルな場面の多い映画だけれど、笑いの半分ぐらいはこの人がらみ。

 監督はトロイ・ダフィーという20代の新人監督で、脚本も本人が書いている。最初から最後まで暴力的で、相当に血生臭い映画だが、同時に馬鹿馬鹿しいまでの楽観主義とご都合主義が同居していて、両者が強引に同居させられている。リアルな暴力描写と、「正義は必ず勝つ」「正義のための暴力は許される」という確信と、コミカルなアクションの混在はチグハグになりそうだが、そのチグハグさも含めてこの映画の面白さになっていると思う。矛盾した要素が渾然一体となって共存する不思議な味わい。アイスクリームの天ぷらみたいなものかな。

 冒頭の教会のシーンから、スタイリッシュな映像表現が炸裂。アクションシーンへの導入部を途中で断ち切り、回想シーンで処理する手法もなかなか冴えている。描かれているのは、兄弟愛と男の友情と正義に対する信念。女性がほとんど登場しないという、徹底した男の世界。正義のヒーローになるという男の子の夢をそのまま映画にしたような素直さだが、最後の最後にハシゴをはずしてしまうあたりは一筋縄ではいかない映画です。

(原題:The Boondock Saints)

2001年陽春公開予定 渋谷東急3
配給:JET 営業&プロモーション:エデン 宣伝:トライアル


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