アタック・ナンバーハーフ

2000/12/19 松竹試写室
タイに実在したオカマのバレーチームの活躍を映画化。
ユニークなスポーツ根性コメディ映画。by K. Hattori


 1996年のタイ国体に、選手のほとんどがオカマで、しかも監督はオナベというバレーボールチーム「サトリーレック(鉄の女)」が出場。しかも並み居る強豪を破って優勝してしまうという珍事が起きた。この映画はその実話をもとにしたスポ根コメディ。話はほとんど三原光尋監督のスポ根コメディ映画(『ヒロイン!なにわボンバーズ』『燃えよピンポン』『絵里に首ったけ』)みたいにベタベタの筋立てとギャグのオンパレードなんですが、これが実話ベースというのはやはり驚き。映画化に際して脚色はあるのでしょうが、モデルのひとりは「映画の実話度は80%」と言っているそうな。この映画はタイで大ヒットし、その内容については賛否両論いろいろあったようだ。原題はチーム名そのままだが、それを『アタック・ナンバーハーフ』とする邦題のセンスはなかなかのもの。何よりもわかりやすいのがいい。

 タイではオカマやゲイをひっくるめて「カトゥーイ」と呼ぶそうだ。オカマとゲイは同じカトゥーイでもずいぶんと違う。映画に登場するカトゥーイの選手も、外科手術済みのニューハーフあり、長髪と薄化粧のオカマちゃんあり、見た目は美少年風のゲイ青年ありで、かなりバラエティに富んでいる。タイは日本や欧米に比べてもずっとこの手の人たちの存在がおおっぴらな国だけれど、映画やテレビの分野では風紀を乱すとしてタブー視されてきたらしい。劇中でカトゥーイの選手を演じているのは、ほとんどが普通の男優たち。唯一の例外はショーダンサーのピアを演じたゴッゴーン・ベンジャーティグーンという俳優で、彼女(彼)だけは本物のカトゥーイだそうだ。あえてそう言われなければ、たぶん誰もが彼女を女優だと思うだろう。かなり美人です。

 バレーチームのメンバーを全員カトゥーイにせず、中にひとりだけ普通の男性を混ぜておくあたりは上手い。実際はどうだったのか知らないが、この非カトゥーイの男性をうまく使うことで、チーム内部の葛藤や外部の偏見との軋轢などをうまく整理している。大柄のバレー選手たちが身体をくねらせ黄色い声を上げながらバレーをするのはやはりかなり異様なわけですが、その異様さをチームないでの黒一点であるチャイという選手が受け入れていく過程が、そのまま観客がこのチーム全体を受け入れていく過程と重なってくる。

 映画はカトゥーイ選手たちがいかにして周囲に受け入れられていくかを描くのがメインで、スポーツ映画としては試合シーンが少々迫力不足。映画のエンドタイトルでモデルになった本人たちのスパイクシーンなどを見せられてしまうと、比較にならないぐらいダイナミックでびっくりしてしまう。この何分の1でもいいから、劇中で迫力ある試合を見せてほしかった。監督の誕生パーティーで選手たちが即興のショーを演じる部分も、振り付けなどをもっとぴったり揃えてほしい。もちろん振りが揃わない方がリアルだけれど、ここはリアリズムにしなくてもいい場面なのだ。こんな指摘はあら探しかな。

(原題:Satree-Lex)

2001年3月上旬公開予定 シネクイント
配給:クロックワークス


ホームページ
ホームページへ