24時間4万回の奇跡

2000/12/07 映画美学校試写室
くだらない世界記録に血道を上げる父親と家族の物語。
意外とシリアスなホームドラマだった。by K. Hattori


 地方新聞社で記者兼カメラマンとして働くロジェ・クロッセは、警察無線を傍受してはバイクで現場に駆けつける日々。家には妻とふたりの子供がいる。そんな彼が15歳の息子ミシェルに向かって「何でもいいから世界一になれ」と発破をかけたのは、半年後のカーニバルで町民が何かしら世界一の記録に挑戦するイベントが行われ、見事記録を達成すると商工会議所からの商品として新車がもらえるからだ。ロジェはギネスブックで、24時間に41,827回というドアの開閉記録を見つける。こんな馬鹿な記録に挑戦する奴はそうそういない。ちょっと稽古すれば、このぐらいの記録は軽くクリアできそうに思える。ロジェは専任のコーチまで雇って、ミシェルにドアの開閉を猛特訓させるのだが……。

 馬鹿馬鹿しい記録に挑戦する馬鹿な父子の話かと思ったら、意外やシリアスな家族再生のドラマで驚いてしまった。画面はモノクロのビスタサイズ。横暴で欠点だらけの父親と、その専横ぶりに苦しむ家族の話を丁寧に描く前半。ある事件がきっかけで、家族全体が新しく生まれ変わっていく後半。最初は困った男にしか見えなかった父親ロジェが、欠点はあるけど憎めない人に見えてくる。このあたりパターン通りではあるのだけれど、その中にユーモアを少しずつ入れているあたりはうまいと思う。ゲラゲラ笑い転げるようなところはないけれど、「トホホホ、こりゃ参ったねぇ」と苦笑してしまうようなエピソードが絶妙のタイミングで入ってくるのだ。

 映画前半の悲惨さに比べると、状況としては最悪になっている後半の方がずっとハッピーな雰囲気になる不思議な映画。それにしても、何だってこの映画の前半はこうも暗いんでしょう。ロジェのバカ親父ぶりに苦しむ家族が本当に気の毒になるし、隣家のハト派の男があそこまで隣近所からバカにされるのも気の毒すぎる。ハト男の児童虐待体験と、ロジェの子供たちの苦しみをオーバーラップさせることで、本当に「もうよしてよぉ」という気持ちになってしまうのだ。ミシェルが逃走したときには、「やった!」と喝采を送りたくなってしまう。たとえその結果が、どんなものであろうともだ。
 庭の真ん中に登場した練習用のドアが、『ドラえもん』の“どこでもドア”みたいですごく不思議な風景。ドアの向こうに消えたミシェルと、その後を追ってドアの向こうに消えるジョスリーヌのエピソードが最高に面白い。ドアの向こうには日常を離れた異世界があるに違いない。そして確かに、その異世界はあった!

 観客の想像力に多くがゆだねられている映画で、最近の必要以上に説明過多な映画を見慣れている目から見ると「もっと説明した方がいいのでは?」と思うエピソードの処理も多い。ハト男の行動の描き方など、妙に尻切れトンボなのだ。しかしその描き方は、「ここまで伝わればそれでOK」という作り手の割り切りが感じられる。これはこれで構わないのだろう。饒舌すぎる映画が多い中で、この訥弁ぶりはひとつの魅力になっている。

(原題:les convoyeurs attendent)

2001年1月下旬公開予定 ユーロスペース
配給:KUZUIエンタープライズ 宣伝:ポップ・プロモーション


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