ゲット・ア・チャンス!

2000/12/05 ワーナー試写室
ポール・ニューマンが仮病の大泥棒を演じるコメディ。
不良老人の格好良さに参りました! by K. Hattori


 町の人たちのほとんどが、一生を町から一歩も出ないで過ごすアメリカの田舎町。高校のプロムクイーンとプロムキングだったウェインとキャロルは、結婚して十数年をこの小さな町で過ごしている。夫婦仲が悪いわけではないが、最近では会話もすれ違うことが多い。キャロルは医療老人ホームで看護婦として働き、夜はぐったり疲れて帰宅。夫ウェインはここしばらく夜勤シフトの仕事が続き、キャロルが帰宅すると入れ違いに仕事に出かけていく。生活のリズムもまったくの食い違いだ。ある日キャロルの働く施設に、ひとりの老人が入院してくる。心臓発作がもとで意識不明になっているその病人は、数年前まで名うての銀行強盗として知られた男だった。田舎町暮らしのキャロルにとっては大事件。彼女はこの男が、本当は仮病を使っているのではないかと考える……。

 元大泥棒ヘンリーを演じているのはポール・ニューマン。当然意識不明の病人ではなく、酒も飲めばダンスもし、車を運転して水にも飛び込む、元気いっぱいの不良老人だ。キャロルを演じているのは、『メン・イン・ブラック』『ドグマ』のリンダ・フィオレンティーノ。年増女の魅力がたっぷりで、僕は結構こういうのが趣味だったりする。夫のウェイン役はダーモット・マルロニー。この人は大まじめな好青年から不良まで演じられる人だけれど、今回は『カンザス・シティ』などに通じる、ちょっと不良っぽいけど本当は真面目で小心な男という役柄。マッチョぶっているけど、じつは軟弱な奴です。

 ヘンリーが何のために仮病を使っていたのか、ちょっと事情がわかりにくいのがこの映画のネック。彼はシャバの相棒に多額の金を預けており、それを回収するために刑務所から出る必要があったらしい。ところがヘンリーの服役中に相棒は死に、相棒の息子は託された金を着服して知らん顔。これでは残した金で余生を過ごすというヘンリーの計画も水の泡。脱走して無一文のお尋ね者としてのたれ死ぬか、刑務所に戻って残りの人生を鉄格子の中で過ごすか……。そんなヘンリーに新たな銀行強盗の話を持ちかけるのは、決まり切った毎日にウンザリしていたキャロル。この計画にウェインも加わって、老泥棒に即席の夫婦泥棒を加えた新チームが生まれる。

 映画の見どころは何と言っても、ポール・ニューマンの余裕綽々の芝居。いかにして病人に化けるかという点について、「病人のふりは必ずばれる。精神統一して本当の死人になるのだ」と説明するニューマン本人は、アクターズスタジオで学んだメソッド演技のルーツみたいな俳優のひとり。泥棒シーンも見ていて痛快。トラブルを余裕の表情で切り抜けていく姿は、往年の『スティング』ばりです。とにかく調子がよくて、粋で、色気があって、75歳にもなってちょっと危険な不良の匂いがプンプンしている。こんな年寄りと仲良くなったキャロルを見て、亭主のウェインが焼き餅をやく気持ちもわかる。この映画は泥棒の話だけれど、それ以前に、いい年した夫婦と老人の三角関係を描いているのです。
 
(原題:WHERE THE MONEY IS)

2001年1月公開予定 有楽町スバル座他 全国洋画系
配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給


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