アート・オブ・ウォー

2000/11/27 日本ヘラルド映画試写室
国連の秘密エージェントが巨大陰謀に巻き込まれる。
敵味方の関係がひどくわかりにくい。by K. Hattori


 黒人スター俳優ウェズリー・スナイプス主演のアクション映画。主人公ニール・ショーは、国連事務総長直轄の秘密諜報部署に所属するエージェント。表沙汰にできない手段で世界各国から国家機密を盗み出し、要人に圧力をかけ、微妙なパワーバランスの中で国際平和のための秘密工作をするのが彼らの役目だ。職務のためには過去の記録を抹消し、常に偽名で行動し、連絡も秘密に行う。トラブルに巻き込まれて殺されても、その責任を国連が負うことはない。しかも万年赤字の国連は、そうした危険に見合う報酬を彼らに支払うこともしない。義務感と正義感と使命感がなければ、とてもつとまらない仕事と言えるだろう。ニールはそんな秘密チームの中でも、リーダー格として長年働いてきたエキスパート。しかし対中国向けの秘密工作を準備中、ニールの目の前で中国の駐米大使が射殺されてしまう。現場にいたニールは容疑者の筆頭だ。ニールは逃亡しながら、この事件の裏側にある陰謀を探り出そうとするのだが……。

 監督はクリスチャン・デュゲイ。『スキャナーズ2』『同・3』『スクリーマーズ』などのB級アクション映画を得意とする監督で、エイダン・クイン主演で『アサインメント』という本格スパイ映画を撮ったこともある。そんなに難しい映画を撮る人ではないし、下手な監督でもないはずなのに、今回の映画はまったくチンプンカンプンだった。これは脚本段階でかなり問題があると思う。

 そもそも国連事務総長直轄の秘密エージェントという存在が、具体的に何をしているのかよくわからない。映画の冒頭でその一端を紹介するわけだが、主人公たちが中国の将軍に圧力をかける意味を理解する前に、派手なアクションシーンが始まってしまう。その後の対中国作戦にしても、国連としては中国がどう動くのが望ましいと思っているのかわかりにくい。ベトナム人の遺体を満載したコンテナも、物語とどう関係しているのかさっぱり不明。こういうアクション映画では、主人公が信じ従おうとしている行動原理を明確にしてくれないと、観ている方は混乱してしまうよ。この映画はその点が、どうにも曖昧。説明は一応あるようだけれど、それがアクションシーンの合間に申し訳程度に行われているだけだから、映画を観ていても何が何だかわからない。

 アクション映画の中心に中国を持ってきたのは面白いけれど、何から何まで中国ずくめにしてしまったのも混乱を生み出す原因になっている。最初の秘密作戦の相手は、中国でないほうがいい。中国の将軍に圧力をかける作戦とその後の大使暗殺事件は無関係なのに、それが中国でつながり、中国マフィアでつながることで、両方がもつれ合ってしまう。主人公の協力者に中国美女を配したり、キーワードに中国の古典「孫子」の引用をしたりするから、事態はさらにわけがわからなくなる。

 この程度の話なら、エピソードを整理してもっとスッキリ明確なストーリーラインを作れるはず。これは枝葉が重すぎて、幹が押しつぶされた映画です。

(原題:THE ART OF WAR)

2001年1月公開予定 ニュー東宝シネマ他 全国東宝洋画系
配給:日本ヘラルド映画


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