さすらいの恋人
眩〈めまい〉暈

2000/11/27 シネカノン試写室
自分たちの手で青春を汚してしまう若者たち。
小沼勝監督の日活ロマンポルノ。by K. Hattori


 ユーロスペースで特集上映される小沼勝監督12作品のうちの1本。'78年(昭和53年)に製作された日活ロマンポルノだ。真冬の公園で氷の張った噴水に飛び込む若い女を見つけた青年は、自分もずぶ濡れになって彼女を自分のボロアパートに連れ帰る。互いの名前も素性もよく知らぬまま、体を温め合うようにセックスするふたり。女の名は京子。スーパーのレジ打ち係で職場の主任と不倫関係にあるが、不誠実な彼に愛想を尽かしている。男の名は徹。学生風ではあるが、いつも何かに追われるようにびくびくしている。アパートの隣の部屋から、京子と徹のセックスを覗いている中年男。本業は災害用品の販売だが、裏ではエロゴト師もしているという奇妙な男だ。彼は徹に手っ取り早く金になる“白黒ショー”の仕事を紹介するのだが……。

 ちょっとほろ苦い青春ドラマだ。主人公のふたりは、一度は自分の将来に夢や希望を持っていた。でも京子は職場の上司との関係に疲れ、徹は仲間を裏切った負い目にさいなまれている。夢見ることをあきらめ、大きな挫折感を味わった男と女の出会い。昔の仲間たちに追われることに疲れ果てた徹を助けるため、京子は“白黒ショー”への出演を受け入れる。映画には何度かセックスシーンが登場するが、そのうち半分ぐらいは変態的なショーの場面。レイプシーンも2回ある。青春ドラマとしては、なんとも寂しいセックスの連続だ。

 映画が「青春の夢の挫折」を描いている以上こうした展開も必然なのだが、小沼監督は徹の仲間たちに京子がレイプされるシーンをアパートの薄汚い便所の前で演じさせることで、どうしようもなく落ちぶれてしまった若者たちの姿を強調してみせる。仲間たちが京子を犯しているのを横目で見ながら、「よしてくれよぉ」「俺たち前はこんなじゃなかったじゃないか」と泣きじゃくる男の姿が印象的。美しい青春の思い出を守ろうとする男の涙と、衝動を抑えることなくどこまでも堕ちて行く男たちの姿を対比させることで、このシーンは観客に強烈な印象を残す。奇妙なことに、この場面からは男たちの劣情や性衝動というものがほとんど感じられない。男たちは徹とのささやかな生活に幸福を感じている京子が許せず、彼女を自分たちと同じ場所まで引きずりおろすためだけに彼女をレイプしているようにも思える。犯された京子が便所の中で発見されるのも、彼女を汚すことが目的だから当然なのだ。このシーンでは、わずかに開いた便所の扉から京子の足が少しだけ飛び出しており、その指先にカメラがズームしていくのが印象的だった。何が起きたかをすべて悟り、京子を抱きかかえて吼えるように泣く徹。抱き合うふたりの姿の手前に、真っ白な便器が入り込んでいるという画面のコントラスト!

 挫折して汚れてしまった青春がテーマだが、そんな青春を人はいつか卒業していかなければならない。この映画に登場する若者たちは、青春を卒業するため痛みの伴う通過儀礼を行おうとしているようにも見える。

2001年1月27日公開 ユーロスペース
配給:日活 宣伝:ビターズ・エンド


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