生贄夫人

2000/11/22 映画美学校試写室
山奥の廃屋で繰り返される女性への執拗な責め
小沼勝監督作品。主演は谷ナオミ。by K. Hattori


 1974年(昭和49年)に小沼勝監督が撮った日活ロマンポルノ。主演は谷ナオミ。「S&M 匂ひ立つ官能、新世紀エクスタシー」と題してユーロスペースで上映される、12本の小沼勝監督作品の中の1本だ。華道の師匠をしている清楚な和服美女のもとに、3年前に失踪したまま行方不明になっていた夫が現れる。彼は元妻を山奥の廃屋に監禁し、ロープで身体の自由を奪って執拗に責めはじめる。幾度か逃亡をはかりながら、その度に廃屋に連れ戻される妻。やがて彼女はこの関係の中に、自らの安らぎと生きる意味を見いだして行く。

 見どころはさまざまなシチュエーションの中で繰り広げられるSM行為のバリエーションと、映画の背景となる廃屋とその周辺を形作る映像表現技術の確かさにある。薄暗い廃屋の中で、谷ナオミの白い裸体がくっきりと浮かび上がる様子はシュールですらある。この映画の中の人間には「体温」や「匂い」が感じられない。人間は画面の中に確かに存在しているのだが、そこには手で触ったり匂いをかいだりする実態としての存在感がない。川のせせらぎ、岩の冷たさなど、風景の中には確固たる手触りがあるし、草を踏み分け山道を登っていくときは、山間部特有の匂いのようなものさえ感じられる。しかし人間はそうした空間の中にあり、その風景にとけ込みながらも、あまり生々しさを感じさせない。

 谷ナオミの白く輝く尻から垂れ下がる黄金色の大便に、誰が匂いを感じるだろうか。それはまるでオブジェのように見える。縄に縛ら自由を奪われた人間の肉体もオブジェだし、花嫁衣装のままつり下げられた女の肉体はロープで引っ張られてマリオネット人形のように動き、睡眠薬を飲んで意識不明になっている若い男女はまるでマネキン人形。そもそも元妻を誘拐してくる男は、いつだって同じ背広の着た切り雀。洗濯もアイロンがけもしないのに、シャツがよれるわけでもないし、汗ばんで身体が臭くなるわけでもない。(入浴シーンがあることはあるが、これは女性のヌードを見せるためだ。)この映画の中では人間が脱臭され、妄想の玩具になる。

 SM行為のバリエーションの中では、浣腸プレイが一番面白かった。僕は異物挿入とかロウソクとかムチとか、痛そうなのはまるで駄目なのです。剃毛プレイはもはやSMとしてはソフトすぎる。緊縛にも興味がない。その点この映画の極太浣腸にはやはり迫力がある。浣腸された女の苦悶の表情や、便意をこらえて身もだえする様子、「もうだめ」と言いながらなお我慢しようとする姿にはかなりそそられる。これは羞恥心と快感のせめぎ合いです。我慢しているのは羞恥心と理性からですが、それが解放された後には大きな快楽が待っている。たぶんこの場面が、この映画の全SMシーンの中でも最高峰だと思う。気になったのはその後のレイプシーンで、せっかく浣腸した後なのにアナルセックスに及ばないこと。ここから映画のテンションが下がってくる。やはりこの浣腸プレイが、映画のクライマックスなのでしょう。

2001年1月27日より公開 ユーロスペース
配給:日活 配給協力・宣伝:ビターズ・エンド


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