決戦・紫禁城

2000/11/09 メディアボックス試写室
剣豪同士が皇帝の許しを得て紫禁城で対決。
コメディ色の強い武侠アクション映画。by K. Hattori


 日本でも人気急上昇中の香港若手俳優イーキン・チェンが剣神と呼ばれる剣豪に扮し、ベテランのアンディ・ラウ扮する剣聖と戦うという武侠アクション映画。ストーリーは同門の仇討ちあり、殺人事件の謎解きあり、ほのかな恋心あり、皇帝の座を巡る陰謀ありと、かなりシリアスなものなのだが、味付けは徹底的にコミカルになっている。皇帝密使(皇帝直属の秘密エージェント)の009が狂言回しで、部署内ではさまざまな秘密葺きを開発しているというあたりはもろに007シリーズのパロディだし、風俗考証を無視してなるべく現代風の時代劇を作ろうとしている気配がうかがえる。古典的な武侠片の世界と、それをパロディ化したコメディ路線との引っ張り合いがこの映画の面白さ。ただしそれが空回りしているところも多い。笑えるところも多いけど、ギャグが空回りしているところもある。本来の筋立てである剣豪同士の対決がパロディやギャグに埋没して後退し、物語のアウトラインがぼやけているような気もする。

 僕は最初この映画を真面目な武侠映画だと思って観ていたのだが、開始早々サングラスの皇帝密使が登場して大笑い。女弟子を自分の楯にして身を守ろうとする盗賊剣客を皇帝密使が倒し、背中にくくりつけたグライダーで悠々と空を飛ぶあたりでは、ジェームズ・ボンドのテーマ風を連想させる音楽がかかって、この映画がコメディであることを観客に強調する。ここで「この映画はコメディだから、そのつもりで楽しむぞ!」と気持ちを入れ替えられなかった人は、この映画がまったく楽しめないと思う。僕はもうここで開き直っちゃいました。

 映画の中心になるのは、紫禁城の上で対決することになるふたりの剣豪と、決闘の立会人でありふたりの友人でもある皇帝密使の友情。3人の男たちには、それぞれ美しい女性とのロマンスがからめられていく。剣豪たちは武芸の技を磨くため非常にストイックな生活をしているので、あまりコメディ路線に走れない。笑いを生み出すのはニック・チョン演じる皇帝密使009だ。結果としてはこの皇帝密使が狂言回しという役目すら越えて物語の中心人物となり、他の登場人物たちが脇に追いやられてしまった。皇帝密使に付いてまわるのが、剣豪である叔父を密かに慕う皇帝の妹で、身分の違うこのふたりの掛け合いは非常に面白い。普通の映画なら、このふたりの間に恋が芽生えるんだけど、この映画ではそうならないのもちょっとヘンな感じだ。たぶん人物配置が先にあって、エピソードにコミカルな味付けができるのはこのふたりの周辺しかないため、ここだけがいびつに膨れ上がってしまったのだろう。これはこれで楽しいから構わないんだけど、剣豪ふたりのエピソードも同じように膨らませないから、映画全体がちょっといびつになる。

 アンディ・ラウ演じる剣豪は皇帝の叔父で、皇位に対しては屈折した思いがある。この屈折具合が、このキャラクターにある程度の陰影をつけている。それに比べると、イーキン・チェン演じる剣豪はつまらないなぁ。

(原題:決戦紫禁之巓 THE DUEL)


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