天国から来た男たち

2000/11/03 Bunkamuraシアターコクーン
(東京国際映画祭 ニッポン・シネマ・ナウ)
フィリピンの刑務所に収監された日本人囚人たちの大冒険。
監督は三池崇史。主演は吉川晃司。by K. Hattori


 『漂流街』『DEAD OR ALIVE 2/逃亡者』に続く三池崇史監督最新作。吉川晃司扮する商社マンが、フィリピンで無実の罪で刑務所に入れられ、そこで他の日本人囚人たちと一緒にサバイバルするというお話。最近の三池監督作品にしては、かなりオーソドックスな作り。山崎努が出演していて、日本人の若い商社マンがトラブルに巻き込まれる話なので、滝田洋二郎監督の『僕らはみんな生きている』みたいな雰囲気が漂うところもある。三池作品の中では、本木雅弘主演の中国秘境探検映画『中国の鳥人』に雰囲気が似ているかもしれない。個性的な登場人物たちの中では、主人公が一番まともで常識に捕らわれた人間。それがさまざまな事件や人との関わりの中で、自らの殻を破って大きく成長して行くのだ。もちろんこの場合の「成長」とは、非常識で向こう見ずな大馬鹿者になるという意味なのだが……。

 吉川晃司扮する主人公・早川幸平が、護送用のバスでフィリピンの刑務所に到着するところから映画が始まる。案内されたのは刑務所内にある日本人専用の監房。そこは数名の日本人が収容されており、他のフィリピン人囚人たちとは隔離された安全区域になっている。導入部が護送バスで始まるというあたりは『漂流街』を連想してしまった。身に覚えのない罪で逮捕された主人公は、自分が本来なら刑務所にはいるはずのない人間だと思っている。刑務所にいるのは短い間で、すぐに身の潔白が証明されて外に出られると思っている。彼は身体が刑務所に入っても、心は外の世界に置き去り。刑務所は彼にとって異世界であり別世界であり、自分とは永久に関係のない世界だと思っている。

 個性的な日本人囚人たちが次々に登場する序盤が最高に面白い。中でも遠藤憲一扮する海野という男のハイテンションぶりは強烈。英単語と日本語をチャンポンにして、常に怒鳴るようにしゃべりまくる。このテンションが最後まで維持されるのだからスゴイ。登場シーンで一番笑ったのは山崎努。無言でヌッと立ち上がってすたすた近づいてくるだけで面白い。こうした男たちの存在感が強烈すぎて、唯一の女性囚人である大塚寧々の影が薄くなってしまうほどだ。

 とにかく面白い。それだけの映画。ここには浅薄な日本人の海外進出批判とか、日本人論などの立ち入る余地がない。個性的なキャラクターがぶつかり合って火花を散らす、ドラマとしての面白さがあるだけだ。三池監督はずっと「日本の中の外国人」「異境での日本人」を描いているわけだが、この映画もそうした三池ワールドにずっぽりはまっている。ちょっといじくれば社会批判や日本人批判などに落とし所を作ることも可能なのだろうが、そんな邦画の風潮に迎合することなく、ひたすら映画としての面白さのみを追求する姿勢はキモチいい。

 吉川晃司は『漂流街』の脇役を経て、この映画でいきなりの主役。存在感たっぷりで、かなりイケてる。でも一番おかしかったのは、トイレのシーンだったりして。


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