点子ちゃんとアントン君
(映画祭タイトル)

2000/10/29 渋谷エルミタージュ
ケストナーの原作を『ビヨンド・サイレンス』の監督が映画化。
現代流にアレンジされてなかなか楽しい。by K. Hattori


 エーリヒ・ケストナーの名作「点子ちゃんとアントン」を、『ビヨンド・サイレンス』のカロリーヌ・リンクが現代風にアレンジして映画化した作品。『ビヨンド〜』に主演していたシルビー・テステューも、点子ちゃんの家庭教師役で再登場。東京国際映画祭協賛企画の女性映画週間への出品作だが、来年劇場公開もされるらしい。ケストナーの作品を現代風にアレンジした作品というと、数年前に『ふたりのロッテ』がドイツで作られ日本でも公開されている。今回の映画とコンセプトは同じだが、それもそのはず、2本の映画にはペーター・ゼンクという同じプロデューサーが参加しているのだ。

 内容以前に、この邦題には異議あり。ケストナーの原作はずっと「点子ちゃんとアントン」のタイトルで親しまれているのだから、映画のタイトルに簡単に「君」などと付けるべきじゃない。「アントン」だけだとそれが男の子の名前だとわかりにくいとのことだが、そんなのは原作も同じ。僕は小学生の頃に原作を読んだけど、人名だとわかりにくいのはむしろ「点子」の方だと思うぞ。子供の頃にケストナーの児童文学作品で育った人は多いはず。僕も「点子ちゃんとアントン」「ふたりのロッテ」「エミールと探偵たち」を読んでいる。そうするとやっぱり「アントン君」には馴染めない。似て非なるものが一番違和感を感じる。「ふたりのロッテ」が『ファミリー・ゲーム/双子の天使』まで変わってしまえば、いっそ諦めもつくんだけど……。

 映画はよくできてるけど、ヨゼフ・フィルスマイアー版『ふたりのロッテ』ほどではないと思う。戦前のドイツで書かれた原作をうまく現代流にアレンジしてはいるけれど、物語のベースにある「親と子の愛情」というテーマがうまく浮かび上がってこなかった。裕福で社会的な地位もあるが、子供への愛情に乏しい点子の両親。貧しい生活をしている母子家庭だが、愛情たっぷりのアントンと母親。ふたつの家庭を対比させながら、子供に必要なのはお金でも教育でもなく、肉親の愛情なのだということを描く狙いはわかる。点子には親友がいるし、地域の大人たち、学校の先生、家庭教師や家政婦にもとても愛されている。でも彼女はやっぱり、両親の愛がほしい。描かれているテーマは、とても現代的です。

 この映画に欠けているのは、親たちのネガティブな面をどう描くかという覚悟かもしれない。アントンの両親の離婚や、子供を捨てて顧みない父親。点子を気遣いながらも仕事優先の父と、居心地の悪い家庭を嫌って点子を置き去りにしたままボランティア活動に逃避する母。こうした大人たちの苦しみを丁寧に描くと、物語にはもっと深みが出てきたと思う。

 主人公の点子とアントンはとてもチャーミングで、子供の視点から観ている限りは、きちんとまとまった映画になっている。映画のできとしてはまず及第点の佳作。ケストナー・ファンとしては、次に『エミールと探偵たち』が現代風アレンジで映画化されると嬉しいんだけど。

(原題:PUNKTCHEN UND ANTON)

*この邦題はやはり評判が悪かったらしく、劇場公開時にはタイトルが『点子ちゃんとアントン』になりました。当然のことだけど嬉しい。('00.3.19)


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