ブレックファースト・オブ・チャンピオンズ

2000/10/12 メディアボックス試写室
ブルース・ウィリスが自殺寸前の自動車ディーラー役。
コメディのつもりらしいが笑えない。by K. Hattori


 主演はハリウッドのドル箱スター、ご存じブルース・ウィリス。監督は『モダーンズ』『ミセス・パーカー/ジャズエイジの華』のアラン・ルドルフ。原作はカート・ヴォネガット・ジュニア。共演はアルバート・フィニー、バーバラ・ハーシー、ニック・ノルティ、ルーカス・ハース。なにやら顔ぶれは豪華なのに、どういうわけか都内単館公開で、マスコミ試写も数回しかやらないという奇妙な映画。なぜこんなに冷遇されるのか。それは映画がひどくつまらないからに他ならない。

 自動車販売業で成功し、自分自身が出演するベタなCFで地域一帯に名前と顔が知れ渡っているドウェイン・フーヴァーが主人公。土地ではちょっとした名士扱いで、町を歩けばサインさえ求められる人気者のドウェインだが、彼の人生は深刻な危機を迎えている。表向きはニコニコと愛想のいいドウェインは、毎日朝になるとピストルを口にくわえて脂汗を流す。生きるべきか死ぬべきか、問題は引き金を引く勇気がないことだ。いい加減人生にウンザリしているのに、その人生にオサラバする踏ん切りがつかないまま毎日を送っている。精神を病んだ妻、自称ミュージシャンで普段は庭の核シェルターの中で暮らす息子、頼りとする部下のハリーには女装癖があり、秘書であり愛人でもあるフランシーはセックスの最中もおしゃべりが止まらず、新しく雇った販売員は車のエンジンの熱でバーベキューを始める。奇妙奇天烈な人々に囲まれたドウェインは精神のバランスを崩し、幻覚まで見えるようになってくる。誰かに救ってほしいと願いながら、医者の世話には絶対になりたくない。同じ頃、無名作家のギルゴア・トラウトは、アートフェスティバルの特別ゲストに招かれ脚光を浴びる。

 登場人物が全員ヘンテコリンで、まともな人がただの1人もいないというヘンな映画。物語の中心になるのはウィリス演じるドウェインだが、エピソードやシークエンスは登場する人物たちそれぞれの視点から描かれるため、まったくまとまりがない。各人物がそれぞれが確固とした自分たちの物語を作り出すため、映画は細切れに解体され、ぐちゃぐちゃに混ざり合って何がなんだかよくわからなくなってしまう。ドウェインと彼の周辺の人物たちは行動が支離滅裂なので、むしろこの映画は作家のギルゴアを中心にエピソードを構成していった方が、全体のまとまりはよくなったかもしれない。ギルゴアはかなりの変人だが、この映画の中ではもっともまともな人間に見えるからだ。少なくとも彼は、自分が変人であることを自覚しているように見える。

 この映画の困ったところは、登場人物たちが変人すぎて誰にも感情移入できないところ。変人ぶりがまったく笑えないこと。物語の視点がめまぐるしく変化して付いていけないこと。ここまで話をぶっ壊しておいて、最後は妙に道徳的なオチが付いてしまうのもつまらない。出演者たちは全員が大熱演だが、その熱演がすべて空回りしてどこにもかみ合っていない。困った映画です。

(原題:BREAKFAST OF CHAMPIONS)


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