式日

2000/09/29 東京都写真美術館
藤谷文子の小説「逃避夢」を庵野秀明監督が映画化。
主演は岩井俊二と藤谷文子本人。by K. Hattori


 TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』を大ヒットさせた後、『ラブ&ポップ』で実写映画に初挑戦した庵野秀明監督の新作。前回はデジタル・ビデオを使った実験的な映画だったが、今回はフィルム撮影がメインで、劇中に挿入される形でデジタルビデオ撮影の映像が差し挟まれる。画面のフォーマットはシネマスコープ。映画の規模は前作に比べてかなり大きなものになっていると思うのだが、物語の規模はぐっと小さくなっている。登場人物は名もない男と女のふたりきり。他に数シーンずつ脇の人物が登場して物語を彩る。原則は二人芝居。原作は女優の藤谷文子が書いた小説「逃避夢」。それを庵野秀明が脚色している。出演は原作者でもある藤谷文子と、『Love Letter』『スワロウテイル』などを大ヒットさせ、数年前には日本映画界の救世主と言われていた映画監督の岩井俊二。最近作品を観ないと思っていたら、こんなところで俳優業をやってました。

 新作の構想に行き詰まり、目的もなくぶらりと故郷の町を訪れた映画監督が、誕生日の前日を何度も何度も繰り返す若い女に出会う物語。最初はほんの少し言葉を交わすだけだった二人だが、何日かするとカントクは町の中で彼女を捜すようになり、やがて彼女が暮らす不思議なビルに招かれる。カントクは繊細すぎる彼女の世界にますます惹かれて行く。「あのね、明日はワタシの誕生日なの」という台詞を繰り返す彼女だが、何日たっても誕生日は訪れない。誕生日前日から一夜明けると、そこにはまた誕生日の前日が待っている。彼女は自分自身の誕生日を待ち望み、同時に誕生日が訪れることを恐れている。留守電に残された彼女の母親のメッセージ。行方不明の父親と姉。線路の上やビルの屋上で繰り返される風変わりな儀式。それらを優しく見守るカントクに、彼女も少しずつ心を開いていくように見えるのだが……。

 画面には「1日目」「30日前」のように日付のタイトルが挿入され、1日たつごとに「2日目」「29日前」のように数字がカウントダウンされていく。数字が行き着く先に何があるのか、観客には何もわからない。でもそこで何か決定的なことが起きることだけは予想できる。精神のバランスを崩している彼女。その彼女に手を差し伸べるでもなく、ただ側にいるだけのカントク。ひたひたと近づいてくる死と狂気の足音。この日付表示によって、かなりのサスペンスが生まれている。ただしこの展開だけで2時間8分を観せ切るのは、少し難しいと思う。最初の1時間はこのサスペンスで物語を引っ張れても、僕は後半になって、このサスペンス自体に飽きてしまった。どんなに破滅的で悲劇的な結果であったとしても、早く結末が観てみたいという気分になる。最後の30分ぐらいは、本当に苦痛だった。1週間の最後にこの映画を観たせいもあって、非常に疲れてしまった。

 試写会場になったのは映画の公開も行われる東京都写真美術館。恵比寿ガーデンシネマの隣で立地は悪くないし、設備も立派。これからもっと活用すべき会場だろう。


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