シャンヌのパリ、そしてアメリカ

2000/09/29 日本ヘラルド映画試写室
有名な作家を父に持った娘の成長期。中身はタイトルのまま。
主演のリーリー・ソビエスキーはやはりよい。by K. Hattori


 映画『地上より永遠に』『シン・レッド・ライン』などの原作者として知られるアメリカの小説家ジェイムズ・ジョーンズは、1970年代の初頭までを家族と共にパリで過ごした。ケイリー・ジョーンズは、1960年にパリで生まれたジェイムズの娘。父の死後ケイリーも小説家になり、1990年に自伝的小説「兵士の娘は泣かない(原題)」を出版する。この映画は、その小説を『ハワーズ・エンド』や『日の名残り』のジェイムズ・アイヴォリーが映画化したもの。原作者ケイリーの分身である主人公シャンヌを、『ディープ・インパクト』『愛ここにありて』のリーリー・ソビエスキーが演じている。この映画は'98年の作品。ほんの2年前の作品なのに、今年の作品である『愛ここにありて』に比べるとソビエスキーの表情はずっとあどけない。たった2年で、女性の表情はずっと大人びてしまうものだ。ジェイムズ・ジョーンズをモデルにしたと小説家ビル・ウィリスを演じるのは、カントリー歌手でもあるクリス・クリストファーソン。母役はバーバラ・ハーシー。

 物語は3つのパートに分かれている。第1部はシャンヌの幼い少女時代を、一家が迎えた男の子の養子「ビリー」との関係を中心に描く。第2部は思春期を迎えたシャンヌと、学校で出会った美しい歌声の少年「フランシス」の友情が物語の中心。第3部はアメリカに帰国した一家の物語を、父親「ビル」の晩年のエピソードを交えながら描いていく。上映時間は2時間7分。これをちょっと長く感じる理由は、映画の中に余計なエピソードが入っているからだと思う。それはビリーの母の話だ。

 ビリーの母親を演じているのは、『ビーチ』のヴィルジニー・ルドワイヤン。僕は大好きな女優だけれど、この映画の彼女の登場シーンはもっと減らした方がよかったと思う。映画の冒頭にある日記を書く場面は削ってしまい、彼女はビリーの養子縁組手続きの場面にだけ登場させた方がよかった。ヒヨコは生まれて初めて見たものを親だと思い込むそうだが、映画の観客も無意識のうちに映画の最初に登場した人物を主人公だと思ってしまう癖がある。この映画ではそれがビリーの母なのだ。大きなお腹を抱え、まだ見ぬ我が子が将来読むであろう日記をこつこつ書き続ける若い母親に同情した気持ちは、その後も観客の心の中に生き続ける。観客はビリーの母に向けられた感情を、本来の主人公であるシャンヌに向け直すのに少し苦労してしまう。映画の終盤で、ビリーの母が子供を身籠もるに至る経緯を劇中劇として映像化しているが、こんなものはまったく余計だと思った。彼女の登場によって、シャンヌの存在がぼやけてしまう。

 エピソードの中には尻切れトンボでその後の結末が見えないものも多いのだが、それが逆にドキュメンタリーのような生々しさになっている。印象的なエピソードや登場人物は多いが、悪役を演じることも多いクリス・クリストファーソンの父親ぶりがなかなか。娘の恋愛相談に乗るくだりなんて、すごいと思ってしまいました。

(原題:A SOLDIER'S DAUGHTER NEVER CRIES)


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