独立少年合唱団

2000/09/28 映画美学校試写室
1970年代の全寮制中学を舞台にした熱血青春合唱ドラマ。
康夫役の藤間宇宙がなかなか素敵。by K. Hattori


 1970年代初頭の全寮制中学を舞台に、合唱と死と性と思春期の心の揺れを描いた作品。今年のベルリン国際映画祭でコンペ部門に出品され、アルフレート・バウアー賞を受賞している。監督は40歳の新人、緒方明。プロデューサーは仙頭武則。制作協力と配給はサンセントシネマワークスだが、最近の仙頭&サンセントシネマ作品は、どれも上映時間が長い。この映画は2時間9分。他には『五条霊戦記』『EUREKA』なども仙頭プロデューサーの作品だ。長いのが悪いとは言わないが、映画には適正な上映時間というものがある。現場で映画を作っている監督は、苦労して撮ったフィルムをできるだけ本編の中に残しておきたいと思うもの。それを冷酷無惨にカットするのが、プロデューサーの役割だと思うんだけどね。この『独立少年合唱団』のどこが長いとか冗長だと指摘するわけにも行かないのだが、仙頭プロデューサーにはそのうち短い映画も作ってみてもらいたい。70分ぐらいの映画があると面白いかも。

 主人公の柳田道夫は長く患っていた父を亡くし、叔父に引き取られて山奥の全寮制中学に編入する。転入生である上に吃音(どもり)でうまくしゃべれない道夫は、陸の孤島のような学校の中でひどく孤立してしまう。そんな彼に真っ先に近づき友人になったのは、少女のような美しい顔立ちの伊藤康夫だった。彼は合唱部に所属し、美しいボーイソプラノで部員たちをリードする存在。康夫は合唱部顧問の清野に道夫を引き合わせ、道夫の吃音が歌を歌うときは止まることを発見する。道夫はそのまま合唱部に入り、数ヶ月後には挨拶や会話などでも吃音が目立たなくなってくる。

 映画の中心にあるのは道夫と康夫の友情だ。その親密さは康夫を演じた藤間宇宙の中性的な容貌もあって、ほのかな同性愛感情のようにすら見える。それは思春期前後の少年たちだけが持ち得る、小さな小さな隙間の時間。しかしそんな秘密めいた時間も、時の流れの中では消え去ってしまう。少年たちはこの場所に留まることはできず、時間の流れの中で大人へと成長せざるを得ない。

 よくできた映画だが、僕はこの映画に登場する学生運動の残滓や、少年たちの革命への憧れにどうしても共感できなかった。主人公たちはいろいろな事件や出来事に出会う中で、自ら学生運動への道を選び取るわけではなく、その道へと追いやられていく。生活の中で味わう挫折や閉塞感をうち破るものとして、「東京に行って革命を見る」ことが彼らの夢になる。一種の破壊願望かもしれない。たぶんあと数年後なら、彼らはノストラダムスの大予言に夢中になったことだろう。それにしてもこの映画の中では、学生運動が最初からチンケで薄汚くてただただ暴力的なものとして描かれる。それが当時の中学生の目から見た運動の実態だったのかもしれないが、後半では少年たちがそこに夢を託すのだから、もうちょっと共感が得られる、夢を感じさせる、ヒロイックな幻想がまぶしてあった方がいいと思うんだけどなぁ。


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