キンスキー、我が最愛の敵

2000/09/27 メディアボックス試写室
ヘルツォークが俳優クラウス・キンスキーについて語る。
監督も俳優も、そうとうにいかれている。by K. Hattori


 ニュージャーマン・シネマの旗手として、『アギーレ・神の怒り』『カスパー・ハウザーの謎』『フィツカラルド』などの作品を作ったヴェルナー・ヘルツォークが、5本の作品でコンビを組んだ盟友クラウス・キンスキーについて語るドキュメンタリー映画。ヘルツォークとキンスキーは『アギーレ・神の怒り』で初めてコンビを組み、ムルナウの有名な吸血鬼映画のリメイク『ノスフェラトゥ』や『ヴォイツェック』、大作『フィツカラルド』を経て、『コブラ・ヴェルデ/緑の蛇』を最後にコンビを解消。キンスキーは'91年に亡くなる。ヘルツォークは最近になって、ハーモニー・コリンの映画『ジュリアン』に俳優として出演。でも映画監督としてはなんだか「一時代前の人」になってしまっている。昨年制作された『キンスキー、我が最愛の敵』は、ヘルツォークにしてみれば久しぶりの日本公開作品になる。

 じつは僕はヘルツォークの映画というのをほとんど観ていない。『フィツカラルド』と『カスパー・ハウザーの謎』をテレビで観た程度だと思う。クラウス・キンスキーは他に、マカロニ・ウェスタン『殺しが静にやって来る』の悪役として知っている。そしてもちろん、彼がナスターシャ・キンスキーの父親であることも知っている。そんな半端者の僕でも、このドキュメンタリー映画は面白かった。ここで描かれているのは、映画作りの裏話や、世界的によく知られている俳優や監督の素顔といった生やさしいものではない。強烈な個性を持った俳優と、同じぐらい強烈な個性を持った監督が向き合い、火花を散らせながら映画作りというひとつの目的に向かっていく過程なのだ。撮影現場で互いに怒鳴り合い、殺意すら抱いていた監督と俳優。それでも彼らは、映画作りの現場で互いに相手を求めずにはいられない。結婚と離婚を繰り返すカップルのように、脚本ができるとふたりは熱心に映画について語り、撮影が始まるとすぐに大喧嘩が始まり、敵意と憎しみと殺意が入り混じった雰囲気の中で決別し、映画が大絶賛されると「もう1本ぐらい撮ろうか」と互いに考える。撮影現場を離れれば親友同士のように方を抱き合うふたりだが、いざカメラが回り始めると敵同士のようににらみ合う。

 映画の中ではヘルツォークがロケ現場となった世界各地をたずね歩き、そこで撮影に関わったスタッフや出演者たちとキンスキーの想い出話をする。出てくるのはキンスキーのエキセントリックなエピソードばかり。『アギーレ・神の怒り』の撮影中、乱闘シーンで興奮したキンスキーがエキストラのヘルメットの上から思い切り相手に斬りつけたところ、剣がヘルメットを貫通して頭が割れてしまったとか、撮影が休みの時に何を思ったのかキンスキーがエキストラたちが待機している小屋に向かって発砲し、中にいた俳優のひとりが指を吹き飛ばされたとか、そんな話がごく平然と語られている。キンスキー恐るべし。そのキンスキーと5本も組んで主演映画を撮り続けたヘルツォークも、かなりの変人だ。

(原題:Mein Liebster Feind)


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