いつまでも二人で

2000/09/13 映画美学校試写室
不妊に悩むカップルを主人公にしたラブ・コメディ。
マイケル・ウィンターボトム監督作品。by K. Hattori


 『ひかりのまち』に続くマイケル・ウィンターボトム監督の最新作。長編映画デビュー作の『バタフライ・キス』以来、一貫して人間の暗い面や残酷な面を描き続けてきたウィンターボトム監督だが、その姿勢は『ひかりのまち』で一転。今回の『いつまでも二人で』になって、ついにラブコメディを作るに至った。もともと1作ごとに作風を大きく変える監督なので、こうした方向転換も不思議ではないが、当初の暗さの中にウィンターボトムの真髄を見てしまった人にとっては、『ひかりのまち』以降のウィンターボトム作品は物足りないのかもしれない。でもこうした明るさや優しさは、人間の心が持っている底知れぬ暗さを見た上で、ウィンターボトムがたどり着いたものだと思う。それは『ウェルカム・トゥ・サラエボ』あたりで既に明らかになっていたようにも思う。

 『いつまでも二人で』はコメディだが、扱っているテーマは好いた惚れただけの楽ちんなものではない。ここ登場するのは、子供を望みながらもなかなか子供に恵まれない夫婦という、世界中のどこにでもいそうなカップルだ。ヴィンセントとロージーの夫婦は結婚して5年。当初は子供を作らず夫婦水入らずの生活を楽しんでいたものの、「そろそろ子供でも」と思ってみたら今度は子供ができないという現実にぶちあたる。排卵周期の計算、セックスの時の体位の工夫、食事療法、金冷法、風水占いによる部屋の模様替え、もちろん医者にもかかったが、夫婦共に健康なのにいつまでたっても妊娠の兆しがない。妻の身体に異常なし。だとすれば夫の精子に多少元気が不足しているのか? 医者は「精子ドナー」という選択肢まで提案してくる始末だ。結婚と同時にそれまで勤めていた警察を辞め、妻の父親が経営するガラス工場で働いていることにコンプレックスを抱いていたヴィンセントは、自分が「男性失格」と言われたようでひどく傷ついてしまう。そんなとき、ロージーが少女時代に文通していたフランス人ブノワが夫婦の家にやってくる。

 不妊の問題に悩むカップルは多い。誰だって周囲を見渡せば、不妊カップルの1組や2組はすぐに目に飛び込んでくるはずだ。そこにはいろいろな葛藤やドラマがあるはずなのだが、今まであまり映画のテーマになることはなかった。それが日常過ぎるモチーフのわりには、部外者から見るとあまり切実さが感じられない事柄のように思われるからかもしれない。不妊というモチーフは夫婦にとってあまりにもパーソナルな悩みなので、正面から真っ正直に描けば悲劇的すぎるし、周囲から婉曲に描こうとすれば無神経なものになってしまう。この映画では不妊に悩む夫婦を主人公にしながらも、そこに「妻の初恋の相手だったフランス人が突然居候になる」という事件を織り込むことで、全体をコメディ仕立てにしようと試みているわけだ。その試みは半ば成功している。

 主人公夫婦を北アイルランドに住むプロテスタント系住民という設定にしているのも、「アイルランド=カトリック」という最近の映画にしては珍しい。

(原題:WITH OR WITHOUT YOU)


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