絵里に首ったけ

2000/09/06 映画美学校試写室
色気たっぷりの女性教師がおんぼろラグビー部を建て直す。
三原監督お得意のスポ根コメディ映画。by K. Hattori


 『ヒロイン!なにわボンバーズ』『燃えよピンポン』の三原光尋監督最新作。今回も元気なヒロインが活躍するスポ根青春ドラマのパロディで、物語の展開その他に新しいところは何もない。でも新しさが何もない予定調和の笑いも、たまにはいいもんです。この監督の映画は前記した2本しか観ていないのですが、コメディやギャグのセンスが普通の人とはちょっと違う。普通のコメディ映画は、日常性と非日常性のぶつかり合いや、緊張と弛緩の繰り返しで、観客の笑いを作り出していく。ごく普通の日常風景が、突然非日常的な空間に変わったり、非日常的な事件に巻き込まれてしまう面白さ。観客の緊張感がピークに達したところで、フッと力を抜くその手加減の妙味。そこで観客はクスリと笑う。ハハハと声を上げる。ギャグの多くは、「日常と非日常」「緊張と弛緩」のギャップが生みだしている。普通の人はそういうもんだと理解している。ところが三原監督の映画は、そうしたギャグ作りの定石から離れている。

 ギャグを生み出す落差は、漫才のボケとツッコミみたいなもの。日常的な世間話がボケによって非日常に足を踏み込み、ツッコミ役がそれを日常に引き戻す。これが基本。でも最近は、ボケにボケで返して永久にボケ続けるというタイプの漫才があるらしい。三原監督のコメディ映画は、まさにボケにボケを返してボケ続けるようなギャグに満ちている。馬鹿馬鹿しくも非日常的な風景が、ギャグによってどんどん非日常性を増して行く。ボケにボケを重ねて、映画は日常性に回帰するチャンスを永久に失うのだが、そんなことお構いなしにボケ続ける。この映画では主人公のモノローグが「日常性」という一線を最後までキープし続けるのですが、そこで語られている内容と、実際に画面の中で行われている事柄のギャップが激しすぎて、モノローグが日常性の維持にまったく役立っていない面が多々ある。なんだかすごい映画です。

 全編ビデオ撮りで映画を作る「Lovecinema」の第2弾。かつてラグビーの名門と言われた桜明高校に、ひとりの女性教師が赴任してくる。彼女は死んだ恋人の母校で、彼の愛したラグビー部を再び強いチームにしようとがんばる。部員はわずかに4人。しかも「空いていた部室にたまたまたむろしていただけ」という、ラグビーとは縁もゆかりもない連中ばかり。だが女性教師の色気にクラクラした彼らは、寄せ集めチームを作って地域の強豪チーム京橋高校と戦おうとするのだが……。

 ボケ続ける映画ではあるけれど、話の流れそのものは往年の学園青春ドラマの流れを踏襲し、寄せ集めチームが強くなる過程には周防監督の『シコふんじゃった』からアイデアを拝借するなどして、わかりやすい展開にはなっている。このわかりやすさゆえに、話がどんなにボケまくっていても、映画そのものの足腰はくじけない。三原監督がスポ根ドラマを好むのは、このジャンルが物語の枠組みを強く規定して、話が解体してしまうのを防いでくれるからに違いない。


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