オータム・イン・ニューヨーク

2000/08/31 日本ヘラルド映画試写室
リチャード・ギアとウィノナ・ライダー主演の難病ものメロドラマ。
監督はジョアン・チェン。だいぶ期待はずれ。by K. Hattori


 一昨年『シュウシュウの季節』で監督デビューしたジョアン・チェンが、晩秋から冬のニューヨークを舞台に描くメロドラマ。主演はリチャード・ギアとウィノナ・ライダー。チェン監督の前作『シュウシュウの季節』は後味の悪い嫌な映画で、僕はあまり気に入っていない。でも中国奥地の風俗や文化大革命期という時代の雰囲気がうまく表現されているように思えたし、ロケ撮影で時折はっと驚かせるような絵を作ってみせる力量に関しては、チェン監督の実力も大したものだと思った。でも今回の映画はどうもダメだ。物語が上滑りしていて、どうしても描かれている世界の中に入り込んでいけない。

 主人公ウィル・キーンは、ニューヨークで高級レストランを経営する48歳の独身男。次々に女性を口説いてものにするが、深入りする前に数週間でスッパリ別れてしまう名うてのプレイボーイだ。そんな彼の店で22歳の誕生日を祝っていたシャーロットは、ウィルがかつて親しくしていたガールフレンドの一人娘だった。母親の面影を濃く受け継いだシャーロットにウィルは惹かれ、彼女をデートに誘い出す。父娘ほども年が違うシャーロットとの交際に戸惑い気味のウィルは、早速得意の台詞で彼女に別れを切り出す。「僕たちに未来はない。僕はこれより先に進むつもりがない」と。だが彼女は彼の言葉に少しも動じることなく、こう切り返す。「どうせ私たちに未来はないし、これ以上前には進めない。なぜなら私は心臓が悪くてあと1年の命なのだから」と。

 女性たちをさんざん傷つけてきたプレイボーイの中年男が、難病の若い女が示した純粋な愛に心を動かされ、過去の自分を反省して生まれ変わるという話。初めて本当の愛を知った男の目の前で、愛を教えてくれた彼女は少しずつ体を弱らせていく。そんなメロドラマを、ニューヨークの秋から冬という最もロマンチックな風景をバックに大スター共演で映画化しているのですから、本当ならこの映画はもっと面白くなっていいはず。なのにこの映画は、ものの見事にそれに失敗している。

 物語の中心はリチャード・ギアが演じるウィルという男ですが、彼の女性に対する無礼さや無神経さや不誠実さを、もっとしっかり描いてほしい。そうしないと、シャーロットと愛し合うようになってからの変化がうまく出てこない。もっと重要な欠点は、ウィルのシャーロットの母に対する気持ちや、捨て去った娘に対する気持ちがよくわからないことだ。ウィルがシャーロットの母を愛していたのなら、シャーロットとの恋は一度失敗した恋をやり直すチャンスという位置づけになる。たぶんこの脚本は、そういうつもりでウィルとシャーロット母子を描いているのでしょう。だからウィルは、彼女の母にしたのと同じ失敗を彼女に対しても犯してしまう。同じ恋を繰り返し、同じ失敗を繰り返すウィルが、その失敗を乗り越えて本物の愛をつかみ取る。ところが映画の中のウィルは、シャーロットの母を本当はどう思っていたのかわからない。これじゃ恋の再生が成立しないよ。

(原題:Autumn in New York)


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