マイ・ドッグ・スキップ

2000/08/18 ワーナー試写室
初めて飼った犬との交流の中で成長して行く少年。
笑って泣ける感動作。おすすめ。by K. Hattori


 1942年。9歳の誕生日に母親から子犬をプレゼントされたウィリーは、スキップという名前を付けて親身に世話をする。おとなしくて引っ込み思案なウィリーは友達がいない。唯一の友人だった隣家の青年ディンクが出征してしまったため、ウィリーにとってはスキップだけが唯一の親友だ。小さな子犬はみるみるうちに大きくなってくる。小さな子供だったウィリーの中でも、スキップの成長に合わせるように何かが変化していく。人気者のスキップが手引きをするようにして、ウィリーにも同年輩の友達やガールフレンドができる。スキップや友達の遊び回る内に、色白でひ弱そうだったウィリーは、少しずつ強くたくましい少年に成長して行く。

 原作はウィリー・モリスの同名ベストセラー小説。作者と主人公の名前が同じ事でもわかるように、これは作者の実体験をもとにした作品だ。この映画の製作者たちは第二次大戦下の庶民や子供たちの生活ぶりを丁寧に取材して、映画の中に1940年代のミシシッピーの田舎町を再現することに成功している。登場人物たちの服装、走っている自動車、壁に描かれた広告の絵などの美術以外にも、子供たちの生活ぶりや町の中にある黒人差別などがそれとなく、しかし明確に描かれているのがわかる。

 子供が犬と交流を持つという、ただそれだけの話なのに、なぜこうも感動してしまうのだろうか。それはひとつひとつのエピソードに、きちんと演出や演技の血が通っているからだが、ここでは犬の存在そのものが非常に大きな意味を持っている。主人公のウィリーは、9歳の誕生日からわずか1年ほどの間にさまざまな経験をして、肉体的にも精神的にも大きく成長して行く。この主人公の成長ぶりが、子犬から成犬へというスキップの成長ぶりと重ね合わされているのだろう。スキップは二度と戻ることのない、主人公の少年時代の象徴だ。

 主人公はウィリー少年と犬のステップだが、こういう映画を観るたびに、アメリカの動物トレーナーの仕事ぶりには感心してしまう。ほんの子犬からめきめき大きくなって成犬になり、やがて老犬になるまでを描くのは、似たような犬を探してきての撮影だろう。間で何段階か省略してしまえば楽なのにそうしないのは、子犬が成犬になるプロセスの中に、この映画のテーマがあるからだ。老犬になったスキップを見せるのも、少年時代の終わりをスキップの変わり果てた姿で表現するためだ。こうした映画のテーマを際立たせるために、わざわざものすごい手間をかけて犬を集めるのでしょう。もちろん、スキップの芸達者ぶりも見事なものです。

 ウィリーの父親を演じたケビン・ベーコンが素晴らしい。父子の対話や交流を描いた場面に、忘れられないものが多い。森の中で鹿狩りの銃声を聞いて、子供から「戦争もこんな感じだった?」とたずねられるシーンや、その後のシカの登場シーンで見せる表情に、この役者の表現力の確かさを感じる。獣医のシーンも最高です。僕はここで思わず涙がこみ上げてきました。

(原題:My Dog Skip)


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