パトリオット

2000/08/10 SPE試写室
メル・ギブソンがアメリカ独立戦争の英雄を演じる歴史大作。
星条旗の向こう側にアメリカの夢がある。by K. Hattori


 『インデペンデンス・デイ(ID4)』のローランド・エメリッヒ監督と製作ディーン・デブリンのコンビが、正真正銘のアメリカ独立戦争を描いた歴史巨編。脚本家は『プライベート・ライアン』のロバート・ローダット。内容から察せられるように、この映画は相も変わらず「アメリカ万歳!」を叫び、アメリカ人のナショナリズムを大いにくすぐる映画であることは間違いない。だがここに描かれている「アメリカ万歳」というメッセージは、必ずしも「アメリカは偉大なり!」という意味ではないと思う。そもそもこの映画で描かれた時代、アメリカでは独立宣言こそ出されていたものの実質的には「アメリカ合衆国」という国家体制がまだ整っていなかったはずだし、アメリカ人の内部にもまだ「自分たちはアメリカ人だ」という自覚がなかったかもしれない。この映画で描かれているのは、未だ「アメリカ」という自分たちのナショナリティを持ち得なかった移民やその子供たちが、星条旗の下に「アメリカ人」としての自覚をうち立てていく物語なのだ。

 監督のエメリッヒはドイツ人。主演のメル・ギブソンと息子役のヒース・レジャーはオーストラリア人。主人公の義妹を演じるジョエリー・リチャードソンはイギリス人。さらにフランス人軍人役でチェッキー・カリョが加わり、主人公たちと共に戦う。そしてこの映画を製作したコロンビア映画は、現在日本企業ソニーの傘下にある。こうした非アメリカ人たちが、星条旗を打ち振って進軍するアメリカ独立戦争を描くという面白さ。僕にはこの映画の中の星条旗が「ハリウッド映画」の旗印に見えたし、その向こう側には「未来を夢見ることをやめないアメリカ」を垣間見たような気がした。

 この映画の主人公たちは、イギリス人に家族を殺されている。「復讐を!」と叫ぶ兵士たちを、「復讐よりまずは大義を!」といさめる主人公たち。ここで語られている「大義」とは何か。それは人種や民族を超えた、自由で平等な社会の建設だ。理想主義者である主人公たちは、圧制者であるイギリスの支配さえなくなれば、自分たちの手で理想的な国家を作れると信じている。しかし映画を観ている観客は、独立戦争後にそんな理想国家が出来上がらなかったことを知っているのだ。アメリカではその後も奴隷制度が続くし、人種差別は独立戦争から200年を経た今も、アメリカ社会に根強く残っている。ではこの映画の中で主人公たちが語った「大義」は、意味のない空証文だったのか? そうではない。アメリカの理想は、星条旗のはるか彼方にある。そこにはすぐに手が届かないかもしれないが、星条旗の向こうに理想があることをみんなが信じている。それがこの映画のテーマであり、メッセージであるように思える。そしてこのテーマに、外国出身のエメリッヒ監督もメル・ギブソンも共感しているのではなかろうか。

 星条旗の向こうに理想を信じられるアメリカはうらやましい国だ。日本人は日の丸の向こうに何を見るのか?

(原題:The Patriot)


ホームページ
ホームページへ