エクソシスト
ディレクターズカット版

2000/08/09 ワーナー試写室
'73年に製作されたオカルト映画の古典を監督自ら再編集。
宗教映画としての深みが増している。by K. Hattori


 1973年末にアメリカで公開されるや一大センセーションを巻き起こし、翌年からの世界公開でその評価を不動のものとしたオカルト映画の古典が、オリジナル版より10分ほど長い「ディレクターズカット版」になって再公開される。もっともオリジナル版だって、監督に無断でスタジオ側が編集したわけじゃない。27年前の時点で、監督のウィリアム・フリードキンは自分の意志を押し通し、オリジナル版を自分の思うとおりに編集している。つまりディレクターズカットだったのだ。フリードキンは当時34歳。血気盛んな若手監督だった。

 『エクソシスト』製作にまつわるエピソードは、製作25年を記念して作られたBBCのドキュメンタリー番組「ザ・フィアー・オブ・ゴッド/メイキング・オブ・エクソシスト」(DVD『エクソシスト/特別版』に収録。'98年には東京ファンタで劇場上映もされている)で詳細に語られている。番組の中ではすっかり貫禄の付いた「ベテラン監督」の顔になっていたフリードキンだが、映画製作中は原作者であり製作者でもあるウィリアム・ピーター・ブラッティの用意していた脚本にいきなりダメだししたり、俳優を実際に痛めつけたりピストルで脅したりして恐怖や苦痛の表情を作り、映画に協力していた本物の神父を平手打ちにして半ベソかかせたり(なんて罰あたりな!)、作曲家が録音中にオーケストラの目の前でクビを言い渡したり、かなり無茶なことをやったらしい。そんな喧嘩っ早い監督と原作者の意見が対立し、撮影していたものの最後の最後にカットしてしまった場面が幾つかある。監督が強引に自分の言い分を通したのだ。今回のディレクターズカット版では、なんとその場面が復活している。オリジナル版誕生から20数年の月日が流れて、監督がようやくブラッティの意図を理解したらしい。カットされた場面とその意図については、ドキュメンタリー番組の中でブラッティ本人が丁寧にフリードキンに説明しており、フリードキン本人もそれに理解を示している。このやり取りの結果が、今回のディレクターズカット版になったのだろう。

 オリジナル版とディレクターズカット版の大きな違いは、音響がデジタルになって立体感が増したこと、スパイダーウォークの復活、メリン神父とカラス神父の会話シーンの復活、キンダーマン警部とダイアー神父が登場するラストシーンの復活などがメイン。他にもあちこちに悪魔の顔や悪魔の像をオーバーラップさせるサブリミナル演出が施されていますが、これはあまり効果的でないと思う。やはり最大の違いは、原作者ブラッティが最後まで残すことを主張し、当時の監督が不要と判断した神父同士の会話とラストシーンが復活したことでしょう。これらのシーンが復活したことで、『エクソシスト』は宗教映画として成熟したものになっています。特に神父同士の会話シーンは重要です。

 公開当時は劇場で失神したり嘔吐する客が続出したという映画ですが、今観るとこれは良質な文芸映画です。

(原題:The Exorcist (The Version You've Never Seen) )


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