WEBMASTER

2000/08/02 TCC試写室
ギャング組織のコンピュータ管理者が横領の真犯人を捜す。
デンマーク生まれのサイバーパンク映画。by K. Hattori


 得意のハッキング技術を駆使し、半年がかりで裏社会の大物ストイスのシステムに侵入したJB。ストイスに侵入を察知されたJBだが、逆にストイスに見込まれて彼のドメインの管理者(ウェブマスター)の職を与えられる。最強のハッカーは、あらゆるハッキングを防ぐ最強の管理者だと思われた。だがしばらくすると、ストイスのドメインに新たな侵入者が現れ、大量の金が外部に流出し始める。ストイスはJBを疑い、彼に監視役のボディガードと25時間でストップする人工心臓を付ける。制限時間以内に真犯人をとらえない限り、JBの命はない。JBは相棒のミアと共に犯人を捜し始める……。

 デンマークの映画監督トーマス・ボーシュ・ニールセンのデビュー作。デンマーク映画だがこれは国際版らしく、英語に吹き替えられている。この吹替がひどいありさまで、登場人物の声にほとんど情感が感じられない。薄暗い画面の中で登場人物全員が、モソモソモゾモゾ喋る様子はかなりネムイ。試写室の条件が悪かったのかもしれないが、音響効果も全体的にノッペリと不鮮明になっている。近未来を舞台にしたサイバーSFだが、先行する『JM』や『ニルヴァーナ』に比べると美術が安っぽい。ほとんどが金のかからない室内場面ばかりで、そこも空っぽの倉庫みたいなセットばかり。小道具類も主人公の腹に付けられた人工心臓をのぞけば、どれも雑多な部品を寄せ集めて作ったようなものばかり。未来チックで斬新な造形というのはほとんど観られない。サイバー空間も3D処理しない、2世代ぐらい前のCGだ。

 とにかく低予算なのだ。プレス資料では『ブレードランナー』の名前を出しているが、比較するのがとんでもない話。両者の間には、中華料理のフルコースとカップラーメンぐらいの開きがある。しかし逆の見方をすれば、この映画は低予算でもサイバーSFらしきものが作れるという証明でもある。大きなオープンセットが作れなければ、物語はほとんどを室内に限って美術予算を節約する。主人公たちの移動には狭い路地裏や地下道を使い、なるべく広いスペースの描写を避ける。主人公はコンピュータ技術者だが、初期の段階で肝心のコンピュータを取り上げられてしまった設定にすれば、サイバー空間の描写も最低限で済む。この映画の実態は、サイバーSFの設定を借りた、古いスタイルの探偵映画だろう。自分の意志に反して厄介な事件に巻き込まれた男が、謎めいた女に翻弄されながら事件を解決して行くのだ。

 SFとしての新味はない。話そのものは、ギャング組織に雇われていた男が、組織からの大金横領の濡れ衣を着せられて真犯人を追い始めると、そこには意外な女が深く関わっていた……という型どおりのフィルム・ノワールだからだ。主人公のモノローグも多い。SF仕立てのフィルム・ノワールという点が、『ブレードランナー』との唯一の共通点かもしれない。演出の切れが悪く、サスペンスもアクションもまったくボンヤリした印象。あまり意気込んで観るとガッカリする映画です。

(原題:WEBMASTER)


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