ハリウッド・ミューズ

2000/08/01 GAGA試写室
ハリウッド映画のヒット作には、いつもミューズの影がある。
シャロン・ストーン主演のコメディ。笑えない。by K. Hattori


 事件の影に女あり。世界的なヒット作を次々生み出すハリウッド映画業界の裏側にも、謎めいたひとりの女の姿があった。いや、そもそも彼女を「女」と呼んでいいものか多少の疑問もある。何しろ彼女は、ギリシャ神話に登場する芸術の女神ミューズなのだから……。

 シャロン・ストーンがミューズを演じ、マーチン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロン、ロブ・ライナーといった現役の映画監督が彼女の世話になった男たちを演じるコメディ映画。監督・脚本・主演はアルバート・ブルックス。最近すっかりヒット作に恵まれず、スタジオを解雇されてしまった脚本家のスティーブンは、友人の脚本家からサラ・リドルという女性を紹介される。彼女こそ作家に創造のインスピレーションを与えるミューズだった。だが彼女はひどくワガママで金食い虫。高級ホテルのスイートに泊まらせろだの、リムジンを寄こせだの、真夜中にサラダを買って来いだの、失業中のスティーブンに何かと金を使わせ、アゴでこき使う。彼女を崇拝するハリウッドの大物たちが引きも切らないことから考えても、彼女が映画業界人たちに強烈なインスピレーションを与えていることは間違いない。だが妻とふたりの娘との生活を大切にするスティーブンには、サラの傍若無人な振る舞いが堪えがたいのだ。

 映画を最後まで観て、これがデパートに現れたサンタクロースを描いた名作『34丁目の奇蹟』の映画業界版であることに気がついた。自称ミューズの出現に驚きながらも、少しずつ彼女の能力を信じはじめる主人公。彼女は主人公の家族と仲良くなり、同居まで始める。主人公が人のいい老人か、ワガママでタカビーな女かという違いはありますが、話の流れはだいたい『34丁目の奇蹟』をなぞっています。クリス・クリングルがハリウッドに来ると、サラ・リドルになるのです。

 古典の名作から話のアイデアを借り、ハリウッドの映画業界裏話をたっぷりとまぶし、監督や俳優などのハリウッド人種が大勢本人役で出演しているとなれば、この映画は相当に面白いものだろうと予想するはず。ところがこの映画、話のアイデアほどには面白くない。ギャグの数々がいちいちツボにはまらず、ほとんど笑えません。ミューズことサラ・リドルは、わがまま放題で高飛車な女だけれど、じつはチャーミングな女性として描かれなければならないわけですが、この映画を観ている限り、この女は金ばかり使うクソ女です。創造の才能を与えてくれるからとはいえ、なぜ大勢が寄ってたかってこんな女をちやほやするんだろうか。これって、シャロン・ストーンだから駄目なのかな。例えばミラ・ソルヴィーノだったら、もう少し別の印象になっただろうか……。いやそういうレベルの問題じゃない。この映画、アイデアは面白いけど、脚本と演出がてんで駄目なんです。

 ホームドラマとしても、ファンタジーとしても、映画業界裏話としても中途半端なでき。シャロン・ストーンはきれいだけど、ただそれだけでは観る意味がない。

(原題:THE MUSE)


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