レンブラントへの贈り物

2000/07/31 メディアボックス試写室
17世紀オランダ絵画の巨匠レンブラントの伝記映画。
画家でもある監督が創作の秘密に迫る。by K. Hattori


 17世紀オランダを代表する画家レンブラントの伝記映画。監督は自分自身が画家でもあるシャルル・マトン。劇中に登場する多くの絵も、監督本人の筆によるものだという。監督はレンブラントの生涯を映画化するにあたり、レンブラントの絵を何枚も模写して、自分自身がレンブラントになりきってしまったのだ。劇中で描かれる肖像画は、レンブラントのオリジナルを単に模写しただけではない。映画に登場する俳優たちに合わせて、少しずつアレンジが施されている。でも筆のタッチなどは、完全にレンブラントそのもの。少し前に『迷宮のレンブラント』という贋作画家の映画があったが、あの映画の主人公も身も心もレンブラントになりきって作品を模造していた。この『レンブラントへの贈り物』という映画の裏側では、それと同じ事が行われていたようです。

 映画はよくある回想形式。年老いたレンブラントが身もだえして怒り狂い、「このままでは死んでなるものか。あいつらに目にもの見せてやる!」と絶叫するところから物語が始まります。有名な画家にしては、あまりにも貧しい家の様子。一体彼に何があったのか? 物語はレンブラントの青年時代にさかのぼり、彼の栄華と零落を描いてゆく。ポイントになるのは、彼の伴侶となった3人の女性だ。百科事典でレンブラントの項目を見ると、3人のうち2人まではきちんと名前が載っている。最初の妻サスキアと、晩年の伴侶となったヘンドリッキエだ。映画の中ではそれに加え、レンブラントと息子の乳母ヘルティエの愛人関係を描いている。この映画は徹底してレンブラントと女性を巡る物語だ。最後に物語の幕を引くのも、レンブラントの娘である。

 セザール賞の美術賞を受賞した作品で、劇中に登場する絵画、セット、衣装など、どれもよくできている。ただしレンブラントの住まいがいかにもミニチュア然としていたのには、何の意味もないと思う。ここはそれらしい建物を借りて、クレーン撮影した方がいいと思った。もちろんそれによって莫大な費用が余計にかかるけれど、この映画のミニチュアよりはいいんじゃないだろうか。そもそも、建物の外からのショットがなぜ必要なのかもよくわからなかった。映画を観ていて気になった点だ。

 俳優たちはそれぞれの役を熱演しているが、登場人物相互の関係が不明確。レンブラントと女たちとの愛情や嫉妬や信頼関係はよく描けているが、彼がなぜ絵画界のトレンドからはずれて晩年の不遇な生活を送らなければならなかったのか、その理由が今ひとつよくわからない。彼が人気作家だった頃の画風と、人気がなくなっていく過程での画風にどれだけの変化があったのか。そのどれが支持され、どれが支持されなかったのか。なぜ彼は顧客に迎合して、自分の表現スタイルを変えられなかったのか。そうした部分がきちんと描かれると、ドラマがもう少し盛り上がったと思う。映画ではレンブラントの人気凋落に町の名士たちの陰謀をからめるなど、かなり大胆な解釈をしている。でももっと整理したほうがいい。

(原題:REMBRANDT)


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