SWEET SWEET GHOST
スイート・スイート・ゴースト

2000/07/21 松竹試写室
長崎の小さな島を舞台にした高校生3人の青春ストーリー。
主役3人が輝いてます。僕は大好きな映画。by K. Hattori


 長崎県佐世保沖合の小さな島にある高校に、東京からひとりの少女が転校してくる。“島田英世”という男のような名前の少女の出現に、同級生の山村剛と親友の坂崎拓郎はざわざわとした胸騒ぎを感じる。廃屋での幽霊探しや、拓郎の両親の離婚、クラスメイトには秘密にされていた英世の仕事などをからめながら、映画は夏休みをはさんだ短い時間と、3人の高校生の揺れ動く心理を丁寧に描いていく。監督・脚本はこれがデビュー作となる芳田秀明。主人公の剛を演じているのは『いちご同盟』『39/刑法第三十九条』の大地泰仁。親友の拓郎を演じているのはこれが映画デビュー作の金子統昭。英世役の中島ちあきも、これが女優デビュー作だとか。剛の叔父役で幽霊マニアの博を村上淳が演じていて、これがいいコメディリリーフ。他にも麻生祐未、永島敏行、大杉漣、もたいまさこなど、ベテランが脇を固めている。脇ががっちりと固まっていると、時に固くなりがちな若手俳優たちの芝居も安心して観られます。

 僕は大地泰仁主演の『いちご同盟』が大好きなのですが、今回の映画も少年ふたりと美少女ひとりという『いちご同盟』と同じ人物配置。大地泰仁が演じる主人公はおとなしいタイプで、相手役の金子統昭は演技素人を逆手に取った自然体でグイグイ押してくるヤンチャ坊主タイプ。この組み合わせも『いちご同盟』と同じだ。主演三人のアンサンブルを大地泰仁がまとめ、それをさらにベタランの共演者たちが周囲から固めていくという構成も『いちご同盟』に通じるものだった。物語はまったく似ても似つかぬ物ですが、映画作りの考え方が似ていると思う。もっとも、この手の映画を堅実に作ろうとすれば、どうしてもそうした方法になるのかもしれません。

 映画の中では主人公の剛だけが平凡な生活をしており、悩みといえば居候の叔父が幽霊マニアだということぐらい。しかし拓郎は強がりをいいながらも両親の離婚に心を痛めているし、英世は父親や弟との関係や自分の仕事と将来について悩んでいる。こうした友人たちの悩み事に、多感な剛も心穏やかで入られない。これらをストレートに描けばシリアスで重苦しい物語になりそうですが、この映画は最初から最後までユーモアたっぷり。オープニングの不気味な天本英世も人を食っているし、幽霊マニアである村上淳の奇妙な論理も笑いを誘う。その兄である大杉漣が、弟の論理に肯きながらもそれとなくいさめる場面は、観客を爆笑させつつも、しみじみと肉親の情を感じさせる名場面です。拓郎の空気投げやコロッケも忘れられない場面に仕上がっています。

 映画のクライマックスでは大号泣の愁嘆場になるかと思わせて、ぐるりと物語をひっくり返してみせる。これには驚いた。ただし、その後の主人公たちを描いたエピローグはやや冗長に感じられる。写真のオチはそれ以前に観客も予想しているから、感動させるにはもう一工夫が必要だろう。ここがビシッと決まれば大傑作だったんだけど、なかなか完璧な映画はないもんです。


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