GLOW
僕らはここに…。

2000/07/12 ガスホール
ストリートムービープロジェクト第1弾は『カリートの道』?
現代若者風俗をたっぷり盛り込んだ青春映画。by K. Hattori


 渋谷でも池袋でも新宿でもどこでもいいが、町を歩いていて「こういう人たちはたぶん映画なんてほとんど観ないんだろうな」と思う人種がいる。その一例が、茶髪でガングロの女子高生だったり、タトゥーとピアスの若い兄ちゃんだったりする。こうしたストリート系の若者たちは、映画以外に面白いことがいっぱいあるんでしょうね。僕などはそうした人たちに、どうすれば映画の面白さが伝わるのかと思いますが、この『GLOW/僕らはここに…。』という映画は、映画作りにそうしたストリート系の若者たち自身を参加させるという方法で、映画に若者たちを取り込もうとしているようです。資料を見たときは単なる企画ものかと思いましたが、完成した映画を観ると、これがなかなか骨のある青春映画。お話そのものは古風なものだ。しかしそこに本物の若者たちの風俗を織り込むことで、この映画は平成12年という今を映し出す青春映画になっている。

 物語は昔の東映やくざ映画や、デ・パルマの傑作『カリートの道』と同じ。若者たちが集う東京郊外の町に、伝説の男が帰ってくる。その男の名はシゲト。かつては町で不良少年グループを束ねていた男だが、少し前にグループを抜けて姿を消し、戻ってきた彼は堅気の仕事に精出している。彼が町を去る前から、互いに憎からず思っていた少女アユミとの再会。シゲトに想いを寄せるモデルの理紗がアユミへの対抗意識をむき出しにして、シゲトとアユミの恋は波乱含み。そんな中、不良グループに関わっているアユミの弟・健太は、グループの現リーダーである飯田と対立する。一度はシゲトの取りなしで危機を回避したものの、健太は再び飯田に反逆して捕らえられる。好きな女の弟を助けるため、シゲトは再び不良グループと交渉に向かうのだが……。『カリートの道』でいうと、シゲトはアル・パチーノ扮する足を洗いたいチンピラやくざで、アユミはその元恋人であるペネロープ・アン・ミラー、健太はショーン・ペンにそれぞれ置き換えられる。やくざな世界から足を洗って愛する女と新しい生活を作ろうとした男が、結局は元の世界に引き戻されて破滅する話。それを女性の立場から描き、なおかつ現代日本の若者風俗の中に移植したのがこの映画と言えるかもしれません。表面的には茶髪やガングロ、タトゥーにピアスという若者風俗ばかりが目に付きますが、物語はしっかりした物に仕上がっています。

 話としては非常にまとまっているんだけれど、僕はこの映画のラストシーンに不満だった。中途半端な子供時代を突き抜け、地味な堅気の生活を選んだシゲトには、アユミとハッピーエンドを迎えてほしかった。それがどんな犠牲を払う物であっても構わない。どんな痛みと引き替えの幸せでも構わない。ただ彼には、自分で選び取った本当の自由と本当の幸せを心から味わう権利があるように思える。これじゃ後味が悪すぎる。『カリートの道』の現代若者版で始まった映画が、最後に『豚と軍艦』になってしまったような気分です。


ホームページ
ホームページへ