シャンハイ・ヌーン

2000/07/05 東宝東和試写室
紫禁城から誘拐されたお姫様を救うため近衛兵がアメリカに渡る。
ジャッキーのアクションは最高なのですが……。by K. Hattori


 ハリウッド版ジャッキー・チェン映画の最新作は、紫禁城から連れ去られた中国皇室のお姫様を救うべく、ジャッキー扮する近衛兵がアメリカに渡って活躍する西部劇。監督はこれがデビュー作のトム・ダイ。カンフーの達人が西部劇の世界に行く映画は、つい最近もジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ』があったばかり。アイデアとしては決して新しくもなければユニークでもない。日本の侍が西部に行くという映画も、何本かありましたっけ。要するにこれは「西部劇」というジャンル映画のフォーマットを借りて、どれだけ面白いことをやるかがテーマ。そういう意味で、今回の映画はまずまずだと思う。ちなみにこの映画のタイトルは、西部劇の古典『真昼の決闘(ハイ・ヌーン)』のもじりになってます。

 列車強盗、酒場での乱闘、売春宿、悪党たちの仲間割れ、賞金首、凶暴なインディアンの襲撃と友好的なインディアンとの交流、1対1の抜き撃ち決闘、町中での縛り首、馬を使ったアクション、ガンファイトなど、西部劇に必要なありとあらゆる要素がぎっしり詰まっています。これは『ワイルド・ワイルド・ウェスト』よりもサービス精神旺盛だし、内容的にも面白い。中国人労働者の酷使問題などは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ』にも出てきたので新鮮味はないが、宮廷からお姫様が誘拐されるという筋立ては、導入部としては面白いと思う。ただし主人公の大きな葛藤が、皇帝の命令に対する服従からの脱出というあたりはアメリカ映画すぎて嫌だな。中国の宮廷は「封建的」で「前近代」で、皇帝の命令に服従するのは「奴隷同然」だという規定は一面的すぎると思う。皇帝の命令系統から脱してアメリカで一市民として自由に生きることが、主人公のその後の幸福を保証するかのような描き方は皮相すぎる。映画の中ではそれを「カエルの王子」の童話などとからめて押し切ろうとしているのだが、これがまったくうまく噛み合っていない。主人公のお姫様に対する感情も、高貴な姫君に対する尊敬や畏敬なのか、男が女に対して持つ恋慕の念なのか不明確。主人公とインディアン妻の関係があるから、彼がお姫様になびいて行くのがひどく不実なものに見えてしまう。

 アクションシーンにピリリとしたものが感じられないのも、やや物足りない点だ。冒頭の中国から場面がアメリカに移った瞬間、背筋がゾクゾクするような期待感と興奮が味わえればいいのですが、なんだか生ぬるい印象。列車強盗のシーンも、定番になっている「馬から列車に飛び移る」という場面がないせいかあまりワクワクしない。一番拍子抜けするのは、映画のクライマックスになっている教会での戦い。鐘楼の上から下を見下ろす場面で、目のくらむような高さがまったく感じられないのはなぜなんだろうか。こうした高さを使ったアクションは、ジャッキー映画の定番でしょうに。せっかくのアクションがこうしたヘボ演出で白けるのは残念です。

(原題:Shanghai Noon)


ホームページ
ホームページへ