チェコアニメ映画祭2000

2000/06/12 シネカノン試写室
世界的に評価の高い戦後のチェコアニメをまとめて特集上映。
幻想的な『ナイトエンジェル』が面白い。by K. Hattori


 チェコのアニメ作家、イジー・トルンカとブジェチスラフ・ポヤルの作品を中心とした特集上映が、8月から11月にかけて中野武蔵野ホールで行われる。トルンカとポヤルの他にも、ヤロスラフ・ザフラドニーク、ルボミール・ベネシュ、ブラスタ・ポスピーシロヴァー、パヴェル・コウツキー、ヤナ・メルグロヴァーなどの作品が上映されるが、僕はこうした海外アニメの事情にまったく疎いので、それぞれどんな作風の人なのかすらわからない。劇場では全30作品を6つのプログラムに分けて上映するが、今回の試写はそれらの中から5作品を選んだもの。ポヤルの「ぼくらと遊ぼう」シリーズから『冬眠の話』、同じくポヤルの『探偵シュペイブル』と『ナイトエンジェル』、トルンカの『情熱』と『善良な兵士シュヴェイク1/コニャックの話』が上映された。

 『探偵シュペイブル』では少し寝てしまったので、他の作品について少しずつ感想を述べておく。『冬眠の話』は2匹の熊が遊んでいるとそのうちの1匹が猛烈に眠くなり、やがてペンギンたちのいる北極で冬眠を始め、目が覚めてから冬眠中に見た夢について語り合うというお話。平面の背景の上にレリーフ状になった半立体の人形を置き、それが動いてアニメになる。2匹の熊たちはくるくると姿を変え、時にはボールや凧になり、時には映写機になる。物語はとりとめがなく、ひとつのイメージやエピソードが、次のイメージやエピソードを喚起するままに進行しているように見える。

 『ナイトエンジェル』は事故で目が見えなくなった青年の心象風景を、台詞を一切交えずに描く幻想的な物語。手探りで部屋の中を歩く青年が周囲の家具に手を触れると、そこに家具の輪郭がうっすらと浮かび上がってくる場面にゾクゾクする。暗闇の中を手探りで歩くというのは、確かにこの映画に描かれているようなものだ。予期せぬ事態にパニックを起こすと、部屋中の家具たちが青年に反逆を起こしたかのようにいろいろな場所から現れる。この恐怖感もすごい。部屋で火事を起こしかけた青年がアパートの他の部屋に助けを呼びに行く場面では、壁や階段が目の前に突然出現したり消えたりして、青年をきりきりまいさせる。これはじつに面白かった。

 『情熱』はブラック・ユーモアあふれる物語。赤ん坊の頃からスピードに取り憑かれた男が、スクーターや自転車やバイクや車椅子を猛スピードで乗り回す。「三つ子の魂百まで」ということわざを思い出した。『シュヴェイク』はブレヒトの戯曲にも登場するチェコの人気キャラクターらしいが、僕はあまり面白いと思わなかった。立体的な人形アニメと平面的な紙人形の組み合わせというのはアイデアだと思うけれど……。じつはこのあたりで再び眠くなっていたのだけれど。

 animationという言葉は「動画」という意味の他に、「生気・活発・活気・快活・元気」という意味を持つ。海外のアニメを観ていると、そうしたアニメ本来の活力が感じられるような気がする。単に目新しいせいかな。


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