突破者太陽傳

2000/05/15 東映第2試写室
的場浩司主演のヤクザ映画だが、これは面白いぞ。
原作者の宮崎学も警官役で出演。by K. Hattori


 タイトルは「とっぱものたいようでん」と読む。原作者の宮崎学さんスイマセン。僕はずっと「突破者」を「とっぱしゃ」と読んでました。原作はマンガらしいのですが、僕はそれを読んでません。映画の方は的場浩司主演のヤクザ映画で、正直言って試写の案内をもらっても「またか」「どうせ」といった言葉がすぐに頭をよぎったものです。上映時間は2時間。僕は試写の案内をもらった映画について、まず余程のことがない限り全部観るようにしている。この映画にはまったく期待していなかったんですが、映画は中身を観るまでわからない。これは面白いです。傑作と言ってもいいでしょう。的場浩司という俳優の魅力が、久々に全部出ている作品です。ハードな男っぽさとちょっと間抜けなユーモア、敵に立ち向かうときの強面ぶりと、身内に対する温かさ。的場浩司以外の出演者もそれぞれに魅力たっぷりの芝居をしていて、血生臭い暴力シーンもあれば、思わず吹き出してしまうようなコミカルな場面もあるのです。こんなに盛りだくさんな内容なら、2時間はちっとも長くない。

 1975年。日本の高度経済成長にも陰りが見え始め、それでも世の中が揺れ動いていた時代。和歌山の実家から呼び出しを受けた広告代理店勤務の主人公・弓削章吾は、故郷の駅で数十人のヤクザ者たちから歓迎を受ける。彼らは地元のヤクザ白山組の組員たち。章吾はその組長の一人息子なのだ。じつは最近になって大阪から黒金組が乗り出してきて、強力な組織力と資金力に物をいわせて白山組を傘下におさめようとしているのだ。この杯を受ければ白山組の面子は丸つぶれで稼業を続けることはできないし、杯を断れば黒金組との戦争になって弱小の白山組などひとたまりもなくやられてしまう。窮地に立った白山組は、ヤクザ稼業から足を洗って堅気になることで、黒金組の圧力をかわそうとするのだが……。

 冒頭からこの映画はノリがいい。時代背景を説明する主人公の早口のモノローグと、記録映像のモンタージュ。主人公が会社で働く場面では画面を赤茶けさせて、名画座にかかる古い映画のプリントのような効果を生みだしている。このままハード路線に行くのかと思いきや、映画は途中からコミカル路線に突っ走る。話の内容はシリアスなのですが、語り口に諧謔趣味があってニヤニヤさせられてしまうのです。例えば組の解散を決めた夜、組員たちを前にして「俺に付いてこいや!」と男気を見せた主人公の後ろを、「な〜に熱血してんのよ」とでも言いたげに主人公の妹がスタスタ通り過ぎていく場面の面白さ。刑務所から出てきた兄貴分(小沢仁志)としんみり話をしていた榊原利彦が、熱いお好み焼きを口に含んで喋れなくなってしまう場面のアドリブ的なシーンの切り取り方。そのままガッチリ演出すれば名場面になるかもしれないようなシーンにユーモアを少しずつ引き込むことで、この映画は型どおりのヤクザ映画に生身の人間の匂いをつけることに成功していると思いました。すぐにビデオになると思いますが、これはオススメです。


ホームページ
ホームページへ