アム・アイ・ビューティフル?

2000/05/11 TCC試写室
複数男女の愛情探しを描くドイツ映画。でも舞台はスペイン。
映画はいいけど、この邦題には芸がない。by K. Hattori


 スペインとドイツを舞台にしたドイツ映画。灼熱のスペインと、いつもどんよりと雲って肌寒く、雨がショボショボ降っているドイツの対比が面白い。中身は複数の登場人物が相互に関係なく物語に参加する形式で、『マグノリア』『ハピネス』『マイ・ハート,マイ・ラブ』など、最近よく見かけるパターンの映画です。登場人物がエピソードをリレーしながら、2時間弱の上映時間を「愛の喪失と再生」というテーマで押し切っています。監督は『愛され作戦』のドーリス・デリエ。主演は『ラン・ローラ・ラン』のフランカ・ポテンテとされていますが、彼女は登場人物の中のひとりに過ぎません。むしろ軸になるのは、老夫婦と三人の娘たちの結婚と恋についての物語。この一家を中心にエピソードが派生するのですが、そのエピソードを一家の側からではなく、その外側から描いて一見バラバラのエピソードのように見せています。このあたりは『マイ・ハート,マイ・ラブ』に似てます。あれも老夫婦と三姉妹の物語でした。

 個々のエピソードにそれぞれヒネリがあって、僕はとても楽しく観ることができました。物語の背景にイースター(復活祭)を置くことで、「愛の死と再生」というテーマに一本芯が通っています。登場人物のすべてが似たような悩みを抱えているなんて現実にはあり得ないことでしょうが、この映画では描写の切り口を少しずつ変えて、すべての登場人物の悩みや人生を他とは異なるユニークな物として見せています。電話を使う例、モノローグを使う例、回想シーンを挿入する例、台詞のやりとり、独り言のような回想談、手紙など、手を変え品を変えて「愛の喪失」を立体的に描き出す。共同脚本も兼ねているこの監督、なかなかのストーリーテラーです。

 この映画にはいろんな形の愛が登場します。失った愛に対する執着、新しい愛への逃避、複数の愛の間での葛藤、新しい愛との出会い、大昔に捨て去った愛の再生。描かれているのは男女の愛だけではなく、親子の愛もあるし、見ず知らずの他人に対する隣人愛もある。そんな愛に満ちた映画でありながら、この映画は甘ったるい描写に流れず、結構残酷だったり辛辣だったりするのです。でもその残酷さや辛辣さが、「しょうがないねぇ」と思わず笑ってしまうようなユーモアを含んでいる。僕が一番残酷だと思い、同時に笑ってしまったのは、妻の留守中に若い愛人を家に呼んだ男の前で、愛人が自殺を図ってそこいら中を血まみれにしてしまう場面。男の身勝手さに対して、これほど痛烈な反逆はないでしょう。大量出血でヨレヨレになって抱きかかえられながら、真っ白な部屋の壁やベッドカバー、絨毯などに血をこすりつけていく若い女を見て、僕は「やれやれ〜、もっとやっちゃえ〜」と声援を送ってました。これは映画だから笑えますけど、自分が同じ立場になったらと思うとゾッとします。でもやっぱり笑っちゃう。

 それにしても、ドイツ映画にはまだまだ面白い物がありますね。今後もドイツ映画界に注目です。

(英題:Am I Beautiful?)


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