ムッソリーニとお茶を

2000/04/24 UIP試写室
第二次大戦中のフィレンツェに残った外国人女性たちの友情。
派手さはないが滋味のある人間ドラマです。by K. Hattori


 フランコ・ゼフィレッリ監督が、第二次大戦中のフィレンツェを舞台に描いた人間ドラマ。物語は1935年から始まる。戦争前のフィレンツェにはイギリスやアメリカからの外国人も多く、地元の住人たちとも仲良く暮らしている。町でも有数の被服商パオロのもとで秘書として働く英国女性メアリーは、パオロが愛人に生ませたルカという少年の世話をしている。恐妻家のパオロはルカを身の回りに近づけず、孤児院に送ってそしらぬ顔。メアリーはルカを不憫に思い、自分の手元で育てることにする。周囲の女性たちもそんなメアリーを応援し、中でもアメリカ人富豪の夫人エルサは、ルカの教育のために莫大な額の資金を提供することになる。イタリアではムッソリーニのファシスト党が政権を執っており、治安は非常に良くなっている。元英国大使の未亡人であるレディ・ヘスターは、フィレンツェ英国人社会の女ボスとして権勢を振るっているが、彼女は徹底したムッソリーニびいき。だが町では少しずつ外国人排斥の気運が高まってくる。身の危険と近づく戦争の気配を察知して、外国人たちは次々と帰国していくのだが……。

 ゼフィレッリ監督自身がフィレンツェ出身ということもあって、この映画に登場する町の風景の美しさは素晴らしいの一語。絵はがきや観光ガイドブックに載っているような美しい風景が、戦争に蹂躙され、人々が傷つけられていく様子がじつに丁寧に描かれている映画です。この映画には戦争も軍隊も登場しますが、戦闘シーンはほとんど登場しない。町の住人や主人公たちにとって、戦争はどこか遠い土地で行われている事柄に過ぎない。でも彼女たちもまた、その戦争に否応なしに巻き込まれていく。高まる外国人排斥運動。街頭では外国人に投石が行われ、ユニオンジャックが燃やされる。イギリスとイタリアが戦争状態になれば、町に残った英国婦人たちは町はずれにある急造の捕虜収容所に軟禁される。イタリアは急速にドイツと接近してユダヤ人たちがかり集められ、やがて町にもドイツ兵たちがやって来る。爆弾が落ちるわけでも、機関銃の弾が飛んでくるわけでもない戦争。そんな戦争でも人は傷つくのです。

 戦争が始まろうと何があろうと、戦争前の生活を頑なに守ろうとする女たち。それが映画の中にユーモアを生み出しています。戦争だ戦争だと大騒ぎするのではなく、あくまでも日常にすがりつこうとしているのが面白い。登場するひとりひとりが個性的に描かれていて、いかにも「こういう状況ではそんな行動をするだろう」と思わせるのが上手い。どのエピソードも粒ぞろいです。シェール、ジュディ・デンチ、マギー・スミスなど、出演者の顔ぶれも豪華で、それぞれのキャリアがにじみ出た芝居のアンサンブルも見事。大仕掛けなドラマで最後は感動の嵐!といった映画ではありませんが、物語のあちこちに、小さな痛みや人間の温かみを感じさせる感動的なエピソードが詰まっている。公開規模の小さな地味な映画ですが、これは観て損はしないと思います。

(原題:TEA WITH MUSSOLINI)


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