映 画 史
第1部

2000/04/14 徳間ホール
ジャン=リュック・ゴダール監督の全8章かならなる大作の前半4章。
映画史の教科書ではなく、ゴダール流の映画論。by K. Hattori


 ジャン=リュック・ゴダール監督が描く、映画100年の歴史の総まとめ。1Aから4Bまで全部で8章からなり、総上映時間は4時間半に達する大作だ。全編がビデオ編集。フランスではその一部がフィルム変換(キネコ)されて'97年のカンヌ映画祭で上映されたが、ゴダール本人はそのクオリティに失望。その後の劇場公開への道は閉ざされた。今回の日本での上映はゴダールが禁じたキネコ方式ではなく、ビデオから直接プロジェクターでスクリーンに投影する方法が採られる。今回の試写でも3管式のプロジェクターで徳間ホールの大きなスクリーンに投影されていたが、画面のジャギーなどはほとんど目立たず、じつに鮮明な映像だった。最近のプロジェクターは、本当によくなりました。映画そのものがビデオ編集だし、引用された映画の素材もビデオが多いようで、フィルムほどのクッキリとシャープというわけではないが、この映画を一目見れば、これがビデオでなければ製作不可能だったことがすぐわかると思う。

 映画100年を記念しての作品かと思ったら、必ずしもそうではないようです。1977年からゴダールはモントリオールの映画芸術コンセルヴァトワールで「映画史」の講義を行っており、その講義録も「ゴダール/映画史」として出版されている。それにテレビ局のカナル・プリュスが目を付けて、ゴダール自身による映像化を試みさせたのが本作ということらしい。この映画の第1章と第2章は'88年に一応完成し、その後、フランスの映画会社ゴーモンが出資して'94年から'96年にかけて3章から7章までが完成。'98年には第8章も出来上がって、ついにゴダールの『映 画 史』は完結する。

 タイトルは『映 画 史』ですが、ここから映画の歴史を学ぶことはできないと思う。映画の誕生から現代までをいくつかの時代にわけ、ゴダール流の視点から丁寧にひもとくといった趣向の作品ではないのです。これは映画ガイドではない。これは映画史のテキストではない。これはゴダール流の映画史の解釈であり、ゴダール流の映画論です。古今東西の映画作品が、絵画や音楽などと共に膨大に引用されていますが、それがどこからの引用なのか、そこでその引用をすることにどんな意味があるのかはまったく解説されることはない。どの引用も数秒から数十秒程度。ある映画の引用の上に別の引用がかぶさり、そこに台詞や字幕が何重にもオーバーラップする。引用されている映画は、映画黎明期のリュミエール作品、初期のサイレント映画、ニュース映画、もちろん劇映画、アニメーション、ミュージカル、アングラのポルノ映画、膨大な数のスチル写真など多岐に渡る。この映画はその内容を楽しむと言うより、ゴダールの映画的な素養のルーツをのぞき見る楽しみがある。有名人の書斎の本棚を覗くのと同じ楽しみだ。

 “映画史の教科書”としては、本文がないまま脚注や引注だけを目の前に突きつけられているような感じ。そこから意味を取り出すのは、かなり難解だと思う。

(原題:HISTOIRE(S) DU CINEMA)


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