ハネムーン・キラーズ

2000/04/04 シネカノン試写室
アメリカで実際に起きた殺人事件を描く異色のラブストーリー。
1970年に製作されたモノクロ映画。面白い。by K. Hattori


 人間若い頃は誰しも、自分の将来に夢を持っているものです。将来は自分の才能を生かした職業に就き、愛するパートナーと巡り会って私生活の面でも充実した毎日を送る。社会的な評価は別としても、自分の前には間違いなく幸せな未来が広がっている。そんな根拠のない思い込みは、成長するにつれて少しずつ色あせてくる。ある年齢になれば、自分が必ずしも世界一の美男美女ではないと誰だって思い知るし、これから先どうあがいても大金持ちにはなれそうもないと気がつく。映画に登場する美男美女のカップルに無条件で自分を重ね合わせられるのは、まだ将来に夢を持った若い頃だけ。自分のしょぼくれた人生に気づいてしまった大人の観客は、むしろ光り輝く主人公たちの周辺にいる、しょぼくれた脇役たちに自分を重ねるようになる。世の中には2種類の映画が存在します。颯爽とした主人公たちの劇的な人生を描く映画と、冴えない主人公がありふれた日常の中で悪戦苦闘する映画。『ハネムーン・キラーズ』は連続殺人事件という非日常を描いていますが、間違いなく後者です。

 主人公のマーサは病院で看護婦長をしている巨漢のオールド・ミス。文通クラブで知り合ったレイは三流の結婚詐欺師ですが、彼女はその正体を知った後も彼を愛し続け、彼の「姉」として詐欺の片棒を担ぐようになる。しかし焼き餅焼きのマーサはレイが他の女性に甘い言葉をかけるのを快く思わず、ただでさえ三流の結婚詐欺師であるレイの商売は不首尾の連続。やがてふたりは、結婚をちらつかせて女性に近づいては殺して現金を奪うという、じつに乱暴な犯罪に走るようになる。

 主人公たちの犯行はいつだって行き当たりばったり。彼らがもっと頭がよければ、こんなに血生臭い犯罪を何度も繰り返すことはなかったでしょう。しかしどんな人生だって、たいていは行き当たりばったりなものです。マーサとレイの犯罪遍歴は、彼らの人生そのものを象徴しています。目先にちらついた小さな幸福の幻影に惹かれ、向こう見ずな行動をとるマーサとレイ。お堅い看護婦長だったマーサも、三流詐欺師だったレイも、それぞれひとりならこんなに大胆な犯罪は犯さないし考えもしないでしょう。しかしひとりでは不可能なことも、ふたりが力を合わせれば何とかなるものです。ふたりはのっぴきならない共犯関係に自分たちを追い込むことで、互いの愛情を確認しあう。その愛情にどれほどの真実があるのかはわからないけれど、彼らは「愛しているから」「あなたのために」という理由で人を殺しまくるのです。

 犯した罪の重さに比べ、あまりにも安っぽいふたりの関係。その安っぽい関係を維持するために、犯罪の深みにはまっていくふたり。第三者から見れば、どうしようもなく愚かです。でも僕は、このふたりに同情してしまう。たぶん観客のほとんどは、このふたりに同情すると思う。自分たちの将来を見切ってしまった冴えない主人公たちは、犯罪の共犯関係になることでだけ、将来にはかない夢を見ることができたのです。

(原題:The Honeymoon Killers)


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