アイ・ウェント・ダウン

2000/03/13 映画美学校試写室
ギャングの仕事を手伝うハメになった青年の運命は?
ユーモアたっぷりのクライム・コメディ。by K. Hattori


 つまらない罪で刑務所に服役中、恋人が親友とデキて、一方的に別れを告げられたギット。刑務所を出れば、その親友はヤクザからの借金で首が回らなくなっている。行きがかりから彼に助け船を出したギットはヤクザのボスであるフレンチに見込まれ、親友の借金を棒引きにするかわりにある「簡単な仕事」を引き受けることになる。それは金を持ったまま消えたグローガンという男を、フレンチのもとに連れてくるという仕事。相棒としてあてがわれたのは、粗暴なバニーという中年男だった。

 「ケルティック・フィルム・フェスト」で上映される、1997年のアイルランド映画。主人公ギットを演じるのは新人のピーター・マクドナルド。相棒のバニーを演じるのは『マイケル・コリンズ』『ザ・ジェネラル』(一昨年の英国映画祭で上映されたが劇場では未公開)のブレンダン・グリーン。監督のバディ・ブレスナックは短編映画やドキュメンタリーもこなす人で、長編映画はこれが2作目だという。演出ぶりに突出した特徴は感じないが、かなり手堅い芝居作りをする人です。辛気くさくて血生臭い物語ですが、ユーモアがそれをカバーする楽しい映画になっている。脚本のコナー・マクファーソンは劇作家で、映画脚本はこれが初めてだとか。

 映画の中ではヤクザが「簡単な仕事だ」と言えば、それは難しくややこしい仕事になるに決まっているし、にわか作りのコンビはどこかちぐはぐな仕事ぶりになるに決まっている。この映画もそうした伝統(?)を守り、物事はどんどん混乱していきます。そもそも主人公ギットがヤクザと関わりを持つことになった事からして、予定外と言えば予定外でしょう。ギットはつくづく不運な男です。彼のいつも困ったような表情がじつにいい。恋人や親友に裏切られたのに、彼らのために命がけの仕事を引き受けてしまったお人好しのギット。観客はすっかり彼に同情して、どこかで彼の人生が逆転する事を期待するようになるはずです。

 相棒バニーのキャラクターもよく考えられています。一見すると抜け目がなさそうだけれどかなりの間抜けで、いつも強がりばかり言っていても、そのじつ弱みだらけのバニー。ことあるごとに女房子供に電話する彼の姿が何とも哀れ。彼が家族と別居するきっかけになるエピソードも、情けなくて同情を禁じ得ません。最初はトラブルメーカーにしか見えなかったバニーが、やがて頼もしい相棒に見えてくるあたりはうまい。

 映画の後半は話が交錯して、僕には筋立てがよくわからなくなってしまいました。ただし物語のテンポがかなりスピーディーなので、話がわからなくなってもそのままストーリーはどんどん先に進んでしまいます。そして、先に進んでも一向に構わないような内容。このあたりのヒネリ具合も、抑制が利いていて面白いと思う。ヒネリは聞かせてあるけどどんでん返しが繰り返されるといった内容ではないので、最後はきちんと帳尻が合う仕掛け。この映画も日本公開の予定なし。面白いんだけどなぁ。

(原題:I WENT DOWN)


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