ボイスレター

2000/03/08 メディアボックス試写室
無実の死刑囚が4人の女性と声の文通をしていたが……。
パトリック・スウェイジ主演のサスペンス映画。by K. Hattori


 『ゴースト/ニューヨークの幻』の頃の面影は今いずこ。すっかり無骨な顔になってしまったパトリック・スウェイジの最新作。無実の罪で死刑判決を受け、死刑囚用の独房に閉じこめられているレイス・ダーネルは、獄中で書いた手記が大ベストセラーになり、ファンの女性たちとボイスレターのやり取りをしている。死刑執行が刻々と近づいている彼にとって、女性たちとのテープのやり取りだけが心の慰めだ。相手は4人だが、女性たちはテープをやり取りしているのが自分だけだと思っている。ところが獄中で人気者になったダーネルに嫉妬した看守のひとりが、いたずらで女性宛のテープを入れ替えてしまう。自分以外にも文通相手がいたことを知った女性のひとりは怒り狂い、ダーネルに匿名で脅迫のテープを送りつけてきた。弁護士の努力もあって、ダーネルは再審で無罪が確定。刑務所を出て自由の身になったダーネルを、謎の脅迫テープが追いかけてくる。やがて殺人事件が発生。はたしてテープの主は誰なのか?

 死刑囚とのボイスレターのやり取りは、文通だけで完結し、決して出会うことのない関係だ。互いの声はテープで知っているし、顔は写真で知っている。でもその写真が本人のものとは限らないし、テープに吹き込まれた内容が真実だとは限らない。ダーネルは女性へのボイスレターの中で「君だけが心の支えだ」と言うが、その相手は4人いる。女性たちもダーネルに真実を語っているわけではないことを、刑務所から出た彼は思い知らされることになる。声のやり取りというきわめて生々しい関係でありながら、同時にきわめて匿名性の高い関係がボイスレターなのだ。この関係は、インターネットの中で発生する「メールフレンド」との関係にも少し似ている。相手の年齢も性別も容貌も正確に知ることのないまま、互いの妄想だけが膨らんでいく。

 ミステリー映画としては釈然としない部分もあるのだが、文通が持つ匿名性の下に隠された真実というアイデアが面白く、つい最後まで物語に引き込まれてしまう。犯人が誰なのかも、最後の最後までまったくわからなかった。この点については、脚本や演出そのものに反則気味の部分もあるんだけど……。

 主人公が同時に4人の女性と親密なボイスレターの交換をするという設定そのものに、主人公の不誠実さを感じる人もいるかも知れない。でも僕は、あまりこの点は気にならなかった。無実の罪で死を宣告された彼は、目の前にぶら下がった「死」という現実から逃避するための何かを求めていたのだと思う。それが女性との文通というファンタジーだった。彼が刑務所から出られる可能性はゼロだったからこそ、「もし刑務所を出たら君と暮らしたい」という無責任な話も許された。相手の女性も、それがファンタジーだと知った上で文通していたはずです。でもそれが現実になったとき、バラ色のファンタジーは突然色あせてしまう。たとえテープの入れ替えがなかったとしても、彼の運命は同じだったかもしれない。

(原題:LETTERS form a KILLER)


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