楽園

2000/03/01 メディアボックス試写室
『萌の朱雀』のスタッフが作った映画。雰囲気はそっくり。
物語より気分を優先した映画だと思う。by K. Hattori


 自主映画『君が元気でやっていてくれると嬉しい』の萩生田宏治監督の最新作。『萌の朱雀』の仙道武則がプロデュースし、『萌の朱雀』の撮影監督だった田村正毅、音楽の茂野雅道なども参加しているためか、この映画も雰囲気がほとんど『萌の朱雀』。ちなみに萩生田監督本人も、『萌の朱雀』ではチーフ助監督をしていたという。『萌の朱雀』が好きな人は、この映画も好きになるかもしれない。僕は『萌の朱雀』がよくわからないので、この映画もやっぱりよくわからない。

 船を造る話です。舞台は九州の天草地方にある小さな島。そこにバリ島の獅子舞を上演しに来たシンジは、たったひとりで木造の船を造っている島の老人と知り合う。シンジは仲間たちのフェリーには乗らず、老人の船造りを手伝うことになる。そんなふたりを遠巻きにながめているのが、老人の孫娘スズエ。島には行方不明のシンジを探すために、フクオとヒトミという仲間たちも残る。ふたりはシンジを探し回るのだが、なかなか見つからない。やがて船は少しずつ完成に近づいて行く。

 主人公のスズエを演じているのは、『プープーの物語』のプッツン女コンビの片割れ役で僕に頭痛を起こさせた松尾れい子。今回は始終ふてくされている女子高生という役柄で、ちょっと大柄な田中麗奈といった雰囲気。この女優さんは、『がんばっていきまっしょい』で田中麗奈のお姉さんを演じていた人です。妹に説教する女子大生ぶりが目に焼き付いているので、今回の女子高生役はちょっとどうかとも思ったけど、ほとんど私服だったし、あまり気にはならなかった。シンジ役の荒野真司は俳優と言うよりアーティスト。老人役の谷川信義に至ってはロケ地の島で大工をしているまったくの素人。かなり異色のキャスティングですが、これはこれで面白い。特に老人の表情が最高です。この人は本当に船を造るのが趣味で、今回も「船を1隻造らせる」という条件で出演交渉したとか……。僕は船に興味ありませんが、この老人の仕事ぶりはすごい。さすがプロ。映画の中にノコギリの目立てをする場面が出てきますが、その動作がいちいち決まってる。本職が大工だから、刃物の目立ては日常業務。動きにまったく無駄がない。

 『楽園』というタイトルの映画だけれど、そこは南の島の別天地でもないし、いわゆるリゾート地の案内に出てくるような「現代のパラダイス」ではない。ここで描かれているのは、人間が心から安らげる場所はどこにでも存在するということかな。老人にとって、船を造っている一時は間違いなく“楽園”だったのだと思う。スズエにとっては、船を造る男たちをながめることが安らぎだったのかもしれない。映画を観ていて「僕にとってはどこが“楽園”なんだろう?」と考えてしまった。

 『萌の朱雀』同様、この映画もかなり説明を省略している。主人公たちのその後については、観客がそれぞれ勝手に想像するしかない。しかし、海に浮かべた船はどうなるんだろう。あれはただの粗大ゴミでは?


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