リュシアン
赤い小人

2000/02/23 シネカノン試写室
小人の弁護士が人殺しの末、サーカスで慰めを得る話。
なんだか僕にはピンとこない映画でした。by K. Hattori


 小人の弁護士が人殺しの罪を他人になすりつけた後サーカスに入団し、そこで道化師として大成功するというベルギーとフランスの合作映画。原作はフランスの有名作家ミシェル・トゥルニエで、この映画のもとになった小説も邦訳が出版されているという。僕はこの作家の本、大昔に1冊だけ読んだことがある。「聖女ジャンヌと悪魔ジル」がそれ。面白かったです。僕って昔から、こんなのにばかり興味を持ってたのね……。監督・脚本はベルギーの新人イヴァン・モワーヌ。若い頃に映画館経営を経験し、その後映画製作の側に回ったという経歴の持ち主。'56年生まれだから、もう40を越えてます。主演はジャン=イヴ・チュアルは、身長127センチという短躯の俳優で、トッド・ブラウニング監督のカルトムービー『フリークス』の舞台版に主演していたこともあるそうです。映画出演もこれが始めてではない。

 この映画の中では、主人公の体格が「奇形」や「個性」として描かれるのではなく、彼が持っているコンプレックスの象徴として描かれています。人間なら誰だって、自分の身体や性格や過去の経歴などについて、あまり他人からとやかく言われたくない部分を持っている。この主人公の場合、それが背丈なのです。こればかりは手術で問題を解消するわけにも行かないし、心の持ちようで何とかなるものでもない。主人公の身長は、人間なら誰しも持っている「解消不可能なコンプレックス」そのものです。背が低くて不便なことがあるかもしれないけれど、それが人生において決定的な不幸の源になどなりっこない。でもそれを不幸の源泉と考えてしまうからこそ、それはコンプレックスなのです。主人公はまがりなりにも一流の弁護士事務所に勤めており、その特殊な文才について一定の評価も得ている。でも彼は、それ以上のものを望むのです。自分は身長が低いがゆえに、本来なら与えられるべきものを奪われていると考えるのです。このコンプレックスが、彼を異様な行動へと駆り立てていく。これはコンプレックスを持っている者なら、誰もが陥る落とし穴です。

 映画の最後まで、主人公のコンプレックスは解消しない。彼はサーカスという世界で自分の短所を長所に変える技術を見いだしましたが、それによって彼の悩みが解消したわけではない。サーカスの人気者になっても、彼はまったく癒されないのです。普通は「体が小さいことで、主人公はこんな活躍をしました。めでたしめでたし」にしてしまいそうですが、この映画はそうした安易な落ち着き先を断固拒絶する。それがこの映画のユニークなところかもしれません。

 いろいろと考えさせるテーマやモチーフを含んだ映画ですが、それでこの映画が面白いかというと、まったくそんなことないのが残念。言わんとするところはわかりそうな気もするけど、「だから何なのよ?」で終わってしまいそうな映画です。主人公の悩みが、観客の悩みとシンクロしないんだよなぁ。それが欠点かな。

(原題:Le Nain Rouge)


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