REQUIEM of DARKNESS
クラヤミノレクイエム

2000/02/07 シネカノン試写室
廃館寸前の小さな映画館を舞台にした『酔いどれ天使』。
脚本家森岡利行の映画監督デビュー作。by K. Hattori


 劇団STRAYDOGの主催者であり、『新・悲しきヒットマン』『極道戦国志・不動』『鬼火』などの脚本家でもある森岡利行が、'94年からSTRAYDOGの舞台で上演している「暗闇のレクイエム」を自らの手で映画化した。東京・中野にある閉鎖寸前のうらぶれた映画館。そこではちょうど黒澤明特集が組まれ、映画館の外には『野良犬』の看板が掛かっている。今どきこんな映画館でこんなプログラムをかけるなんて、よほどの映画バカでないとやっていられない。映画館主はひとりで切符売りからモギリ、売店、掃除までこなす中年男。それを支える中学生の一人娘は、映画監督になるのが夢の美少女。そんなアットホームな映画館に、ガンで余命幾ばくもないまま組のブツを持ち逃げしたヤクザ、看護婦をしている彼の妹、奪われたブツを取り戻そうと奔走する荒っぽい連中、仕事に疲れた元脚本家志望のサラリーマン、ヤクザにたかられている気の優しい風俗嬢、職権を笠に着て看護婦にセクハラする医者と取り巻きの看護婦軍団などが現れては消える。

 物語のベースにあるのは黒澤明の『酔いどれ天使』。白いスーツの若い顔役が組織内で兄貴風を吹かせているが、病気になって組織から放り出されると、男の意地をかけて組織に牙をむく。三船敏郎が演じた『酔いどれ天使』の若いヤクザの姿が、そのまま『クラヤミノレクイエム』の若いヤクザにだぶってくる。映画の最後には有名なペンキまみれの格闘もきちんと再現されているし、主人公がドアを開けて外に飛び出す場面もうまくアレンジされている。『酔いどれ天使』では薄暗い廊下から物干場へという移動がダイナミックな効果を生むのだが、『クラヤミノレクイエム』は同じ『酔いどれ天使』から別の場面を引用して、このラストシーンを印象的なものにした。僕も黒澤映画が大好きなので、こういう引用には大いに喜んでしまいました。(主人公のヤクザが最後に映画館のドアを開けて中にはいると、そこでは今まさに三船敏郎が絶命する場面が映写されている……という展開も予想したんですが、現行のラストもOKです。)

 舞台が映画館ということもあって、登場人物には映画好きも多いし、映画にまつわる台詞もたくさん出てくる。こういう映画を観ると、それだけでポイントが何点か跳ね上がっちゃいます。映画の中で「映画の話」が出てくるのは、指圧のうまい人に上手にツボを押されたような快感があります。切符を売った映画館のオヤジが、客の先回りしてモギリをやる場面の傑作なこと! 最近の映画館では券売機も普及しているし、入口で発券とモギリを兼ねているところもある。でもこれじゃ、まったく映画館らしくないんです。切符を買った後、期待に胸を膨らませながらモギリに向かうまでの時間が、映画好きの楽しみであったりもするのですね。この映画は、映画ファンのそんな心理をうまく突くのです。監督のデビュー作ということもあって未消化な部分も目立ちますが、映画ファンなら気に入る作品だと思います。


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