スリーピー・ホロウ

2000/01/25 日本劇場
17世紀末のアメリカで起きた、連続猟奇殺人の真相は?
ティム・バートン監督が描くアメリカの伝説。by K. Hattori


 『マーズ・アタック!』以来のティム・バートン最新作。主演は『シザーハンズ』『エド・ウッド』のジョニー・デップ。共演はクリスティーナ・リッチ。音楽は当然ダニー・エルフマン。モチーフになっているのは、アメリカに伝わる「首なし騎士」の伝説。ここまで聞けば、中身はバートン流のおどろおどろしくも切ないファンタジー映画を期待するのが当然。しかしこれ、今までバートンの映画を支えてきたファンが拍子抜けするぐらい、バートンらしくない普通の映画なんです。『シザーハンズ』『バットマン・リターンズ』『エド・ウッド』とエスカレートしてきた「異形の悲しみ」というバートン節のトーンが抑えられ、『マーズ・アタック!』で見られた際限のない悪ふざけもナリを潜め、今回はものすごく「普通の映画」に仕上がっている。

 もちろんバートン作品に馴染みの人から見れば、この映画にもバートンらしい匂いが濃厚に漂っているのはすぐに見て取れます。マーチン・ランドーやクリストファー・リーといった、怪奇映画風(一方は『エド・ウッド』でドラキュラ役者を演じてアカデミー賞を受賞し、もう一方は本物のドラキュラ役者)のキャスティング。ジェフリー・ジョーンズやリサ・マリーといった、いつもの顔ぶれ。じっとりと濡れたようなセット・デザイン。どれをとっても、バートンの映画です。でもこの映画では、そうした中に突出したものがない。尖ったところがなくなって、全部の角が丸くなっている。今回のバートンは自分の創造性を強く押し出すことなく、自分の培ってきたテクニックや想像力の引き出しの中から、適当にありものを引っぱり出してきて並べたような気楽さが感じられる。これを作家としての余裕や円熟と感じるか、手抜きと感じるかで意見が分かれそうだ。

 1本の娯楽映画としては十分に楽しめる内容だし、全体にきれいにまとまって破綻もなく、そこそこの作家臭も漂わせながら、コンパクトな時間(1時間46分)にまとめた作品だと思う。残念ながらそこには『バットマン・リターンズ』や『シザーハンズ』『エド・ウッド』にあったような胸を締め付けるような悲しさや、おもちゃ箱をひっくり返したような『マーズ・アタック!』の楽しさはないのだが、それはティム・バートンのオタクぶりを偏愛するファンの言い分であって、一般のお客さんには関係のない話だ。今までバートンの映画で、日本で大ヒットしたものなんてないんだもんね。その理由のひとつは、彼の作品があまりにもマニアックな評価を受けてしまい、一般の映画ファンを獲得できないところにあったように思う。今回この映画が日本劇場に掛かると聞いて「なんでバートン作品が! 大丈夫なのか?」と思いましたが、この内容ならむしろイケルんじゃないだろうか。グロテスクな描写にユーモアをからめて、残酷で陰鬱な話をあっさりとしたタッチに仕上げているし、魔女や騎士の幽霊といったホラー映画の要素もあるし、高級な文芸映画の匂いもするし……。

(原題:Sleepy Hollow)


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