オール・アバウト・マイ・マザー

2000/01/18 徳間ホール
息子を亡くした母親が息子の父を捜そうとするのだが……。
アルモドバル監督のカンヌ受賞作。by K. Hattori


 スペインの映画監督、ペドロ・アルモドバルの最新作。昨年のカンヌ映画祭で、最優秀監督賞を受賞している作品だ。今年はまだ10数本しか映画を観ていないが、それでも現時点でこの作品が今年のナンバーワン。公開はゴールデン・ウィークとまだだいぶ先の話ですが、これは誰にでもお勧めできる作品です。涙があり、笑いがあり、ドラマもきちんと作られている。

 主人公マヌエラは、マドリードの病院で移植コーディネーターとして働くシングル・マザー。息子エステバンは17歳の好青年だ。ところがふたりで芝居を観に行った帰り道、エステバンは交通事故であっけなく死んでしまう。ずっと隠してきた父親とのいきさつを、息子に話して聞かせると約束した矢先のことだった。ショックに打ちひしがれているマヌエラは、エステバンの父親を探すため、たった独りでかつて青春時代を過ごしたバルセロナに向かう。そこには親友アグラードが待っていた。

 登場人物はほとんどが女性だが、みんな一癖も二癖もある曲者ばかり。息子を失って傷心のマヌエラ。おかまの娼婦アグラード。妊娠中の修道女ロサ。贋作画家をしているロサの母親。レズビアンの大女優ウマ。ウマの恋人でジャンキーの新進女優ニナ。そして、エステバンの父親であり、ロサを妊娠させた張本人でもあるマヌエラの元夫ロラ。出演している役者たちは日本ではほとんど馴染みのない顔ばかりで、例外はシスター・ロサ役のペネロペ・クルス(『オープン・ユア・アイズ』『イフ・オンリー』『ハイロー・カントリー』)ぐらい。名前や顔を知らなくても、この映画に出演している女優たちが素晴らしいことは変わりない。マヌエラ役のセシリア・ロスの清潔感、ウマ役のマリサ・パレデスの貫禄、そしてアグラードを演じたアントニア・サン・ファンの存在感。どれも忘れられない印象を残す。

 ドラマも観応えがあるが、映画の色彩感覚にビックリする。特に赤の使い方の大胆さ。これほどたっぷりと原色を使っていながら、画面はちっとも下品になっていないのだ。映画そのものはかなり厳しい話です。物語のベースには、いくつもの死がある。生きていくことの辛さ、苦しさ、人間の残酷さがたっぷりと描かれている。それでも“赤”に代表される画面の明るさが、この映画を楽天的で前向きなものにしている。涙なしには観られない悲惨な話も、最後はハッピーエンドになる。

 映画の序盤はエピソードの組立に仕掛けがありすぎて、それがちょっとあざとく感じられた。例えば息子が車の前に飛び出してマヌエラが驚く場面や、病院での脳死告知の実習がそのまま現実になるくだりなど、よくできてはいるけれどちょっと鼻につく。ところが舞台がバルセロナに移ってからは、エピソードの組立云々よりも人物の面白さでぐいぐい物語を引っ張っていく。マヌエラの部屋で女たちがワイワイガヤガヤおしゃべりに興じる場面の楽しさ。この場面ひとつとっただけでも、一度観ると何度でも観たくなる映画だと思う。

(原題:TODO SOBRE MI MADRE)


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