発狂する唇

2000/01/07 映画美学校試写室
「バカ映画」をエスカレートさせると「発狂映画」になる!
言語道断ですっとこどっこいな映画。笑った。by K. Hattori


 インド映画『ムトゥ/踊るマハラジャ』は日本人観客の映画に対する認識を一変させると同時に、映画製作者たちの映画に対する狭窄した思いこみを打ち砕いた。「映画ってこんなに楽しい!」「映画ってこんなに自由!」「映画ってこんなに簡単に作っちゃっていいんだ!」という“目から鱗”的な衝撃が日本中を駆け抜けたのだ。これはパニック寸前の精神的ショックだった。日本には一躍インド映画ブームが巻き起こり、缶チューハイのCMでは『ムトゥ』さながらのミュージカル・シーンが演じられ、日本のタレントがインド映画に主演してそれが逆上陸する始末。同じ頃、インド映画の「面白い物ならなんでもあり」という精神を受け継ぎつつ、それをホラー映画に転用しようとする馬鹿げたプロジェクトが発足した。それがこの『発狂する唇』だ。じつは僕、この映画の製作に至る経緯をまったく知らないんですけど、たぶん上記のようなことで間違いないと思う。

 脚本家は『リング』シリーズで日本中をホラー旋風に巻き込んだ高橋洋。監督はオリジナル・ビデオの世界で活躍中の佐々木浩久。この映画には、娯楽映画に必要なありとあらゆる要素がぶち込まれている。連続猟奇殺人事件、犯人探しミステリー、オカルト、悪徳刑事、エロティシズム、超能力、暴力、変態セックス、国際的な陰謀、ミュージカル、カンフー、禁断の愛、スプラッター、出生の秘密、その他諸々。こうした何でもありの感覚は、明らかにインド映画の影響を受けた物だと思う。ただしそのテイストはまったく正反対。明朗快活なインド映画に対して、この映画はひたすら陰惨で残虐なのだ。主演は三輪ひとみ。『D坂の殺人事件』で小林少年を演じ、僕の胸を高鳴らせた美少女だ。その彼女が今回、あんな、あんな、あんな、あんなことに……。僕はあまりの事に、映画が虚構であるということすら一瞬忘れて拳を握りしめてしまいました。悪いのはみんな、下元史朗と諏訪太朗の『アナーキー・イン・じゃぱんすけ』コンビです。中年オヤジたちが三輪ひとみちゃんにあんなことを!

 この映画、東京ファンタで上映された直後から「とんでもない映画だ」という噂は聞いてましたが、本当にとんでもない映画でした。ただしこのとんでもなさは計算尽くのものなので、その点が僕は多少不満だ。同じ計算尽くなら『DEAD OR ALIVE』のラストの方がとんでもなかったし、馬鹿馬鹿しさのパワーでは『WiLD ZERO』の方が強烈だった。この手の映画の面白さは、映画の序盤で掛け違えたボタンが混乱を生み、ボタンの掛け違えがさらに増幅されていくことだと思う。序盤でボタンをひとつ掛け違えていたら、中盤では2個ぐらい掛け違いが広がり、最後はボタンを全部引きちぎってカタルシスを味わうのが定石。観客は当然それを期待するだろう。ところがこの映画は、途中で2,3個の掛け違えまで事態を混乱させながら、最後の最後に全部のボタンがきれいに揃ってしまう。最後に妙にツジツマが合ってしまうのが気にくわない。途中までは本当に面白かったのに!


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